フレイニャのブログ

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ローランの歌(25)

満身創痍でローランが角笛を吹き,ガヌロンが裏切り者として捕らえられた「ローランの歌(24)」の続きです。

CXXXVIII(138)

  High were the peaks and shadowy and grand,
  The valleys deep, the rivers swiftly ran.
  Trumpets they blew in rear and in the van,
  Till all again answered that olifant.
  That Emperour canters with fury mad,
  And all the Franks dismay and wonder have;
  There is not one but weeps and waxes sad
  And all pray God that He will guard Rollant
  Till in the field together they may stand;
  There by his side they'll strike as well they can.
  But what avail? No good there is in that;
  They're not in time; too long have they held back.
                      AOI.

峰々は高く,暗く,大きい。谷は深く,川は速く流れる。後衛でも,前衛でも,彼らはトランペットを吹き鳴らす。あの角笛に答えるように。かの皇帝は狂ったように疾走する。そしてフランク兵たちはみな不安と驚きで続く。涙を流し,悲しみにくれない者はいない。そして皆が,戦場で見えるまでローランを護るよう神に祈る。彼の傍で全力で戦えるように。しかし何の益があろう? それに何の意味もない。間に合わないのだ。余りに長く留まりすぎていたのだ。

van は「車のバン」の意味もありますがここは「前衛,先陣(vanguard)」

wax はここでは「次第に……なる」。「次第に悲しくなる」ということでしょう。

He が大文字なのは大文字の God を受けているからです。

hold back は「参加しない,力を出し渋る」の意味があります。

CXXXIX

  In his great rage on canters Charlemagne;
  Over his sark his beard is flowing plain.
  Barons of France, in haste they spur and strain;
  There is not one that can his wrath contain
  That they are not with Rollant the Captain,
  Whereas he fights the Sarrazins of Spain.
  If he be struck, will not one soul remain.
  —God! Sixty men are all now in his train!
  Never a king had better Capitains.
                      AOI.

シャルルマーニュは狂ったように馬を駆ける。シャツの上に彼の髭がたなびく。フランスの諸侯たちも全速で馬を駆ける。怒りを堪えられる者はいない。ローランがスペインのサラセンたちと戦っているのに,自分たちが守将ローランと共にいないという怒りだ。もし彼が討たれれば,兵士たちは皆死ぬだろう。神よ! 彼には今や60名を残すのみだ。これほどの将たちに恵まれた王はいまい。

... whereas ~は「……である一方で~」と訳せることもありますし「~である一方で……」と訳せることもあります。「自分たちがローランと共にいない一方でローランがスペイン軍と戦っている」と「ローランがスペイン軍と戦っている一方で自分たちがローランと共にいない」は同じことですので,入ってきやすい和訳を選択しましょう。

・もう一つのバージョンでも「60」と書かれていました。カール大帝が援軍を決めた時点でもう60人しか残っていなかったことになります。

CXL

  Rollant regards the barren mountain-sides;
  Dead men of France, he sees so many lie,
  And weeps for them as fits a gentle knight:
  "Lords and barons, may God to you be kind!
  And all your souls redeem for Paradise!
  And let you there mid holy flowers lie!
  Better vassals than you saw never I.
  Ever you've served me, and so long a time,
  By you Carlon hath conquered kingdoms wide;
  That Emperour reared you for evil plight!
  Douce land of France, o very precious clime,
  Laid desolate by such a sour exile!
  Barons of France, for me I've seen you die,
  And no support, no warrant could I find;
  God be your aid, Who never yet hath lied!
  I must not fail now, brother, by your side;
  Save I be slain, for sorrow shall I die.
  Sir companion, let us again go strike!"

ローランは禿げた山肌を眺める。フランク兵の戦死者が余りに多く横たわっているのを見る。そして優しい騎士のように彼らの為に涙を流す。「君ら諸侯に神の恩寵があらんことを! 君らの魂がみな楽園に迎えられんことを! そこで天の花々に囲まれて横たわらんことを! 君らほど優れた家臣たちに出会ったことはない。長い間ずっと僕の為に戦ってきてくれた。君らの力でシャルルは王国を拡げてきた。それに対する皇帝の答えがこれか! 

甘美なフランスよ,見捨てられて荒廃した美しき国土よ。フランスの諸侯よ,僕を助けて死んでいった君らよ。君らに何の助けもしてやれなかった。一度も偽ることのない,神が君らの助けとならんことを!

君らよ,兄弟よ,もう君たちを見捨てることはない。戦いで死ななければ,僕は悲しみで死ぬことになる。仲間たちよ,今一度戦おう!」

・動詞 regard は「みなす」が重要ですが「眺める」の意味もあります。regard A as B「A を B とみなす」は「A を B として眺める」といったニュアンスなんでしょうね。regard A as B は look on A as B とも言いますが,look on にも「眺める」の意味があります。

That Emperour reared you for evil plight! はもう一つのバージョンでは The Emperor for this ill fate / Has nurtured you! であり,どちらも「皇帝はこの不運の為に君らを育てた」と読め,皇帝への泣き言と取れます。

CXLI

  The count Rollanz, back to the field then hieing
  Holds Durendal, and like a vassal striking
  Faldrun of Pui has through the middle sliced,
  With twenty-four of all they rated highest;
  Was never man, for vengeance shewed such liking.
  Even as a stag before the hounds goes flying,
  Before Rollanz the pagans scatter, frightened.
  Says the Archbishop: "You deal now very wisely!
  Such valour should he shew that is bred knightly,
  And beareth arms, and a good charger rideth;
  In battle should be strong and proud and sprightly;
  Or otherwise he is not worth a shilling,
  Should be a monk in one of those old minsters,
  Where, day, by day, he'ld pray for us poor sinners."
  Answers Rollant: "Strike on; no quarter give them!"
  Upon these words Franks are again beginning;
  Very great loss they suffer then, the Christians.

それからローラン伯爵は急いで戦場に戻る。デュランダルを握り,全ての将の中で最高と評された24名と共に,名臣らしくプュイのファルドロンを真っ二つにする。これほど復讐に燃えた者はいない。さながら猟犬を前に飛んで逃げる雄鹿の如く,異教徒たちはローランを前に恐れをなして追い散らされる。大司教は言う。「素晴らしいお働きですぞ! 騎士として育ち,武器を持ち,名馬に跨る者はそのような勇敢さを持つべきです。戦場では強く,誇り高く,士気高くあるべきです。そうでなければ1シリングの価値もありません。そして古き修道院で日々人々の罪の為に祈る僧であるべきです」

ローランは答える。「戦おう。彼らを容赦するな!」 その言葉にフランク兵たちは再び立ち上がる。しかし彼らキリスト教徒たちの損害は大きい。

shilling「シリング」について,最初真面目に「shill って何だろう」と調べてしまいました。なおもう一つのバージョンでは「4 deniers(4ドゥニエ)」となっています。「ドゥニエ」はカール大帝の頃に定められた通貨単位です。また denier(デニール)は繊維の太さ(長さ当たりの重さ)の単位にもなっています。たまたま「拒否者(denierディナイアー)」と同じ綴りです。

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・しかしなぜ「4ドゥニエ」なのでしょうか? 「何の価値もない」という意味で引き合いに出すなら「1ドゥニエ」でいいのではないでしょうか? もしかしたら4ドゥニエ分の硬貨があったのかもしれませんね。そう思うのは,古代ギリシアにテトラドラクマ(4ドラクマ)銀貨があったからです。テトラドラクマグラブルのアテナの技で知りました。ゲームでも勉強になるんですね。

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give no quarter についてはアーサー王伝説の以下の回で初めて出会いましたが quarter が「慈悲,寛大」を意味しており「赦さない,容赦しない」という意味です。

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CXLII

  The man who knows, for him there's no prison,
  In such a fight with keen defence lays on;
  Wherefore the Franks are fiercer than lions.
  Marsile you'd seen go as a brave baron,
  Sitting his horse, the which he calls Gaignon;
  He spurs it well, going to strike Bevon,
  That was the lord of Beaune and of Dijon,
  His shield he breaks, his hauberk has undone,
  So flings him dead, without condition;
  Next he hath slain Yvoerie and Ivon,
  Also with them Gerard of Russillon.
  The count Rollanz, being not far him from,
  To th'pagan says: "Confound thee our Lord God!
  So wrongfully you've slain my companions,
  A blow you'll take, ere we apart be gone,
  And of my sword the name I'll bid you con."
  He goes to strike him, as a brave baron,
  And his right hand the count clean slices off;
  Then takes the head of Jursaleu the blond;
  That was the son of king Marsilion.
  Pagans cry out "Assist us now, Mahom!
  God of our race, avenge us on Carlon!
  Into this land he's sent us such felons
  That will not leave the fight before they drop."
  Says each to each: "Nay let us fly!" Upon
  That word, they're fled, an hundred thousand gone;
  Call them who may, they'll never more come on.
                      AOI.

捕虜に取られないことを知る者は死に物狂いで戦う。それゆえフランク兵たちは獅子より獰猛だ。マルシルは名将らしく,ゲニョンと呼ぶ馬に跨る。力強く拍車を当て,ベヴォンに斬りかかる。ボーヌとディジョンの領主だ。彼の盾を割り,鎖帷子をバラバラにし,難なく彼を死体にして吹き飛ばす。次にマルシルはイヴォワールとイヴォンを殺した。そして彼らと共にルシヨンのジェラールも。

ローラン伯爵は彼から遠くない位置にいたが,異教徒たちに言う。「我らが主はお前たちを許さない! お前たちは私の仲間を卑劣にも殺した。別れる前に一撃をくれてやろう。この剣の名を覚えておけ」 彼は名将らしくマルシルを討ちに行き,彼の右手を見事に斬り飛ばし,マルシルの息子,金髪のジュルファルーの首を取った。異教徒たちは叫び声をあげる。「マホメットよ我らを救い給え! 我が同胞の神よ,シャルルに復讐を。彼はこの国に,倒れるまで戦いを止めない悪党どもをもたらしました」 互いに言い合う。「いや,逃げよう」 こう言い合うと,彼らはすぐさま逃げる。10万人が逃げた。誰が呼び止めようとも,彼らはもうやって来ない。

・there's no prison「牢屋がない」ってどういうこと? と最初思いましたが「捕虜に取られない」=「殺される」ということでしょう。

・地名ボーヌとディジョンは日本語でも記事がありました。

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・Yvoerie and Ivon はもう一つのバージョンでは Ivoire and Ivun です。

・リヴィアのゲラルトのモデルではないかと期待したルシヨンのジェラール,ついでに殺されてしまいました。

I'll bid you con の con ですが,ここでは「覚える(古語)」でしょう。もう一つのバージョンでは普通に learn となっています。

・マルシルの息子はテュルファル,ジュルファル,ジュルサル,ジュルサレと色々な表記があります。マルシルもここではマルシリオンのようになっていますね。

avenge us on Carlon という言い方は avenge の語法上極めて重要です。avenge の目的語は,憎い相手ではありません。誰の仇討がしたいかが,avenge の目的語に来るのです。例えば Avenge me! は「俺の仇を討ってくれ」です。DIABLO(初代)の村民の言葉に Avenge us!「私たちの仇を討ってください」というセリフがあります。他人の為ではなく,自分の敵討ちをする場合は,avenge oneself,revenge oneself と言います。そして憎い相手は on/upon の後に言うのです。

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felons は「重罪犯人,悪党」で,もう一つのバージョンでは villains となってます。FF14 に「漆黒のヴィランズ」ってありますね。

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