フレイニャのブログ

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ローランの歌(1)

北欧神話(Asgard Stories)』『クー・フーリン:アルスターの猟犬』『アーサー王と騎士達』に引き続き,4冊目の本はフランスの武勲叙事詩ローランの歌を訳していきたいと思います。幾つか注意点がございますが,先ずはこの物語を選んだ理由としての,ゲームにおける『ローランの歌』の利用状況を「グランブルーファンタジー」を例に語りたいと思います(ゲームに興味のない方は飛ばして下さい)

グラブルには(そして他の多くのゲームにも)デュランダルという剣が登場しますが,これは主人公ローランの剣です。

またグラブルにはミュルグレスという剣(Limited カタリナ加入条件剣)がありますが,これは『ローランの歌』に登場するガヌロンの剣です。

またグラブルFF11FF14に出てくるアルマスという剣は登場人物テュルパンの剣です。更にオートクレールも登場人物オリヴィエの剣です。しかもオートクレールで放つ奥義「ロンセスバージェス」(ロンセスバーリェス,ロンスヴォー)こそ,この『ローランの歌』の舞台なのです。

更に,グラブルの光ジャンヌ・ダルクの奥義「神槍マルテ」の「マルテ」は登場人物バリガンの槍であり,風ジャンヌ・ダルクの「プレシュー」もバリガンの剣です。

グラブルには出て来ませんが,ジュワユース(ジュワユーズ)も『ローランの歌』に出てくるカール大帝の剣ですね。FF11 にあり,私も入手しました。

上に挙げた固有名詞達が登場することを楽しみにしながら全訳を頑張っていきたいと思います♪

 

読んでいただく際の注意

ローランの歌』は11世紀に書かれたフランスの叙事詩です。私はフランス語が読めませんので,私が全訳するのは英訳版となります。詩なので韻を踏むわけですが,英訳者も頑張って韻を踏んでいます。しかし私の日本語訳は韻を踏みません。それどころか詩のようにも訳しません。あくまで誰がいつどこでどのように何を何故したかというのを解読していくのが目標です。岩波少年文庫で読んだことのある『北欧神話』を除き,私が「アルスター伝説」や「アーサー王伝説」を全訳素材に選んだのは,そもそも私が物語の内容を知らないからなのでした。「ローランの歌」も全く内容を知らないので,物語の内容を把握することが目的です。

そういう意味で私の全訳は文学作品とは程遠いものです。中世フランス語から英語,そして私の拙い日本語訳という伝言ゲームを経た結果,趣もずいぶん変わっていくと思われます。しかしこれを私はむしろ面白いと思っています。私がいずれやりたいと思っているのは漢文で書かれた中国の文学作品を,誰かが英語に訳したものの日本語訳です。中国語→英語→日本語と伝言ゲームを繰り返すことで,直に漢文を和訳する時とは違った趣を楽しんでみたいと思っているわけです。

御託宣はこれくらいにして,早速見ていきましょう。最初は固有名詞調べに悶絶すると思われるので,ゆっくりやっていきたいと思います。

 

I

  Charles the King, our Lord and Sovereign,
  Full seven years hath sojourned in Spain,
  Conquered the land, and won the western main,
  Now no fortress against him doth remain,
  No city walls are left for him to gain,
  
Save Sarraguce, that sits on high mountain.
  
Marsile its King, who feareth not God's name,
  Mahumet's man, he invokes
Apollin's aid,
  Nor
wards off ills that shall to him attain.
                      AOI.

私達の王にして統治者,カール大帝は7年間もスペインに滞在した。

この土地を征服し,西の海を手に入れ,彼に抵抗する砦は今や残っておらず,彼が手に入れる市壁も残されていなかった。

ただ高山にあるサラゴサを除いては。

その王マルシルは神の名を恐れず,マホメットの教徒であり,アポリンの助けを頼み,自身に降り注ぐ害を避けようともしなかった。

・節ごとに付いている AOI ってなんでしょうね。……と思ったら,英語版 Wikipedia の Song of Roland“Certain lines of the Oxford manuscript end with the letters "AOI". The meaning of this word or annotation is unclear.” とありました笑 意味は分からないそうです。

Charles the King は「カール大帝シャルルマーニュ」(740年代~814年)です。

Save は「……以外は」。Sarraguce は Sarragoce であり,Zaragoza「サラゴサ」です。フランス国境に割と近いですね。

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マルシルはサラセン(イスラム教徒)の王。アポリンマホメット,ターマガント(テルヴァガン)と共にイスラム教の三主神だとヨーロッパ人が勝手に想像していた神です。アバドンやアポロンに関係していそうです。

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イベリア半島では 711 年,西ゴート王国ウマイヤ朝に滅ぼされ,イスラム勢力が北西部を除く半島のほとんどを支配しました。カール大帝の即位は 800 年です。なお 732 年に名高いトゥール・ポワティエの戦いによってウマイヤ朝ガリア(フランス)侵攻は撃退されています。イスラム勢力撃退に活躍したカール・マルテルの孫がカール大帝です。

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ward off は「防ぐ,躱(かわ)す」といった意味です。ward は「病棟」の意味もありますので,「病人を守る・監視する」とイメージづけしましょう。

attain は「達成する」ですが attain to... は「……に達する」です。to him attain は attain to him から押韻のために attain を文尾に移動させたものです。

 

II

  King Marsilies he lay at Sarraguce,
  Went he his way into an orchard cool;
  There on a throne he sate, of marble blue,
  Round him his men, full twenty thousand, stood.
  Called he forth then his counts, also his dukes:
  "My Lords, give ear to our impending doom:
  That Emperour, Charles of
France the Douce,
  Into this land is come, us to confuse.
  I have no host in battle him to prove,
  Nor have I strength his forces to undo.
  Counsel me then, ye that are wise and true;
  Can ye ward off this present death and dule?"
  What word to say no pagan of them knew,
  Save
Blancandrin, of th' Castle of Val Funde.

マルシル王はサラゴサにおり,果樹園の涼しい場所に行った。

そこで青い大理石の玉座に座り,王の周囲には2万人もの兵達がいた。

そこで彼は伯爵達,また公爵達を呼んだ。

「卿たちよ,差し迫った運命に耳を傾けて欲しい。かの皇帝,甘美なフランスのシャルルが,この国に侵入し,我々を苦しめんとしている。彼を試せるだけの軍勢も持たぬし,彼の軍を取り除くだけの力もない。

なので卿たちに訊こう。卿たちは賢くまた誠実だ。

この死と悲しみを,卿たちは躱すことはできるか?」

彼ら異教徒の誰も答える言葉を持たなかった。

ヴァルフォンドの城主,ブランカンドランを除いては。

・第1節で Marsile だったのが Marsilies に変わって白目になりましたが,マルシルを表す様々な綴りの1つのようです。同じ作品で綴りを変えるのはやめて欲しい😅

France the Douce についてはこの時は分からなかったのですが,第2回を訳している時に Douce France という表現が登場し,調べると「甘美なフランス」「優しきフランス」と訳されているようです。

ブランカンドランヴァルフォンド城については日本語版ウィキペディアローランの歌」に書いてありました。

 

III

  Blancandrins was a pagan very wise,
  In vassalage he was a gallant knight,
  First in prowess, he stood his lord beside.
  And thus he spoke: "Do not yourself affright!
  Yield to
Carlun, that is so big with pride,
  Faithful service, his friend and his ally;
  Lions and bears and hounds for him provide,
  Thousand mewed hawks, sev'n hundred
camelry;
  Silver and gold, four hundred mules load high;
  Fifty wagons his wrights will need supply,
  Till with that wealth he pays his soldiery.
  War hath he waged in Spain too long a time,
  
To Aix, in France, homeward he will him hie.
  Follow him there before Saint Michael's tide,
  You shall receive and hold the Christian rite;
  Stand honour bound, and do him fealty.
  Send hostages, should he demand surety,
  Ten or a score, our loyal oath to bind;
  Send him our sons, the first-born of our wives;—
  
An he be slain, I'll surely furnish mine.
  Better by far they go, though doomed to die,
  Than that we lose honour and dignity,
  And be ourselves brought down to beggary."
                      AOI.

ブランカンドランはとても賢明な異教徒であった。

封臣としては勇敢な騎士であり,その主君を除いて技量の点で1番であった。

そして彼はこう話した。「心配はありません! 高慢なシャルルに降伏するのです。忠実に仕え,彼の友そして友軍となるのです。

獅子や熊,猟犬を彼に献上するのです。鷹かごに入れた千羽の鷹,七百の駱駝を。

四百頭の騾馬に乗せた金銀を。彼が兵らに給料を払うまでに,彼の職人は五十もの馬車分の備蓄を必要とするでしょう。

彼はスペインで戦を始めて時が経ちすぎました。フランスのアーヘンまで,彼は急ぐでしょう。それゆえ我らは聖ミカエル祭までに彼を追い,殿はキリスト教の儀式を受け,彼に忠誠を誓うがよろしかろう。彼が抵当を要求すれば,10か20人の人質を送り,忠誠を誓うのです。我々の息子達を,妻達が最初に産んだ子を送るのです……

もし長子が殺されれば,私は自分の子を提供しましょう。

たとえ死ぬ運命にあろうとも,名誉と尊厳を失い,乞食の身分にまで身を落とすよりは遥かにましなのです」

・このブランカンドランの長広舌の部分,初めは逆説的に降伏を勧めて屈辱的なことを(諸葛亮のように)言って王や諸侯を憤激させ,抗戦させるのが目的かと思ったのですが,調べてみると素直に降伏を勧めていたようです。

Carlun とは!?と思い調べたら,Charlon であり,Charles「カール(大帝)」のことだそうです。綴りを変えるのやめてくれー😂

big with pride は「プライドで大きくなっている」即ち「高慢な」です(ランダムハウス英和大辞典)

camelry は『ランダムハウス英和大辞典』には「ラクダ騎兵(隊)」とありますが,ここはラクダを集合的に言ったものと解します(例えば jewel+ry=jewelry)。獅子,熊,猟犬,鷹と並んでラクダ騎兵は変だからです。

・「フランスのエクス」とはエクス・アン・プロヴァンスのことだと思っていましたが,ウィキペディアを見たらアーヘン(エクス・ラ・シャペル)のことでした。

An は古語で If の意味があるそうです。

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押韻のために大胆に語順を変えているのでなかなか大変です💦 頑張って続けていきます。

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Twitter 告知用あらすじ:カール大帝イベリア半島奪還の戦に出て七年。抵抗するサラゴサのマルシル王は諸将に対策を諮る。能臣ブランカンドランは王に,貢物と人質を差し出し,キリスト教に改宗することを勧める。