フレイニャのブログ

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ローランの歌(12)

ガヌロンの報告を受けてカール大帝がアーヘンに向けて出発した「ローランの歌(11)」の続きです。

LIX (59)

  The count Rollanz hath heard himself decreed;
  Speaks then to Guenes by rule of courtesy:
  "Good-father, Sir, I ought to hold you dear,
  Since the rereward you have for me decreed.
  Charles the King will never lose by me,
  As I know well, nor charger nor palfrey,
  Jennet nor mule that canter can with speed,
  Nor sumpter-horse will lose, nor any steed;
  But my sword's point shall first
exact their meed."
  Answers him Guenes: "I know; 'tis true in-deed."
                      AOI.

ローラン伯爵は自身が命じられたのを聞いた。それでガヌロンに礼儀正しく話しかける。「義父さん,僕は義父さんを大切にしなければなりません。義父さんが僕を殿軍に指名してくれたのですから。

僕はカール大帝の期待を裏切りません。僕には分かります。駈歩で疾走できる軍馬も馬も,雌ロバも騾馬も,運搬用の馬も,どんな馬も失いません。

でも僕の剣の先は彼らから報酬を取り立てることになるでしょう」

ガヌロンは答える。「そうだな。実際そうなるだろう」

・動詞の exact は「厳しく取り立てる」という意味があります。meed は「報酬,賄賂」です。exact their meed とは彼らサラセン軍を負かして彼らから財産を取り立てるということでしょうか。

LX

  When Rollant heard that he should be rerewarden
  Furiously he spoke to his good-father:
  "Aha!
culvert; begotten of a bastard.
  Thinkest the glove will slip from me hereafter,
  As then from thee the wand fell before Charles?"
                      AOI.

ローランは自分が殿軍になったのを聞くと激しく継父に話しかけた。「ああ,卑しいろくでなしだこと。僕が手袋を落とすのを見ようとしたのかい? あのときシャルルの前で杖を落としたように」

・ここは短いながらも悩みました。まず前節から口調が変わっているのが謎です。もう一つのバージョンでもそういう流れになっています。

・次に culvert に驚きました。「暗渠,地下水路」という意味だからです。もう一つのバージョンは traitor「裏切り者」となっています。そこで Wiktionary を引くと culvert は Middle English で nefarious「極悪な,無法の,不埒な」の意味だそうです。

begotten of a bastard では begotten は「生まれた」という意味なので,bastard から生まれたということでしょう。とにかくものすごく詰っています。

・最後の2行も苦しみましたが,もう一つのバージョンでは Thou thought'st to see me here let fall the glove / As thou erst dropped the staff before the King! となっており,こちらを参考に訳しました。

LXI

  "Right Emperour," says the baron Rollanz,
  "Give me the bow you carry in your hand;
  
Neer in reproach, I know, will any man
  Say that it fell and lay upon the land,
  As Guenes let fall, when he received the wand."
  That Emperour with lowered front doth stand,
  He tugs his beard, his chin is in his hand
  Tears fill his eyes, he cannot them command.

「皇帝陛下」とローラン伯爵は言う。「陛下がお持ちの弓を私に下さい。

私の知る限り,誰もそれが地面に落ちたとか言って非難したりはしません。ガヌロンが杖を落とした時とは違って」

かの皇帝は首を垂れて立っている。彼は髭を引っ張り,顎を掴む。目に涙を湛え,止めることができない。

・bow って弓でいいんですよね……

Neer は Ne'er = Never でしょう。Neer in reproach will any man say that... は「誰も……だと,非難して(in reproach)言ったりはしないだろう」です。

command は「命令する,指揮する」ですが注意すべき意味として「(場所が)……を見晴らす」があります。さらに今回は「(感情を)操る」です。he cannot command them の them は直近の tears を受けていますから,「涙を操れない」→「涙が出てくるのを止められない」ということですね。

・大意としては,命令に従容と従うローランを見て泣いてしまったということでしょうか。もしかしたら,外交を任せる相手には手袋と職杖を渡すのに対し,戦を任せる相手には弓を渡すのかもしれませんね。

LXII

  And after that is come duke Neimes furth,
  (Better vassal there was not upon earth)
  Says to the King: "Right well now have you heard
  The count Rollanz to bitter wrath is stirred,
  
For that on him the rereward is conferred;
  No baron else have you, would do that work.
  Give him the bow your hands have bent, at first;
  Then find him men, his company are worth."
  Gives it, the King, and Rollant bears it furth.

そしてその後ネーム公が出て来る(この世に彼ほどの家臣はいなかった)

王に言う。「陛下は彼の声をお聞きなされた。ローラン伯爵は怒りに駆られています。というのも彼に殿軍が任されたのです。その任務に就きたいという家臣は他にいますまい。

先ずはお手に持たれた弓を彼にお渡し下さい。それから彼に付き従うに値する者をお選び下さい。

王は弓を与え,ローランはそれを受け取る。

For that について。文頭の For... は「というのも……」という接続詞の可能性がありますが,古くは For that... と言ったのかもしれませんね。となれば「というのも」の for の語源は前置詞であり,for that... で「……ということのために」→「というのも……」となったのでしょう。現代英語では for that... とはまず言いません。また「ひとたび……すれば」の once... も古くは once that... と言いましたが,現代英語では言いません。ただし「今は……なのだから」の now... は,現代英語でも now that... という言い方が残っています。

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confer は「相談する,協議する」です(cf. カンファレンス)が,他動詞で「与える」の意味があります。on him the rereward is conferredthe rereward is conferred on him「殿軍が彼に与えられている」です。

LXIII

  That Emperour, Rollanz then calleth he:
  "Fair nephew mine, know this in verity;
  Half of my host I leave you presently;
  Retain you them; your safeguard this shall be."
  Then says the count: "I will not have them, me I
  
Confound me God, if I fail in the deed!
  Good valiant Franks, a thousand score I'll keep.
  Go through the pass in all security,
  While I'm alive there's no man you need fear."
                      AOI.

それでかの皇帝はローランに呼びかける。「我が甥よ。真に知るが良い。今は軍勢の半分をお前に預けよう。彼らを率いるが良い。これでお前を守らせよう」

すると伯爵は言う。「彼らは必要ありません。もし私が失敗したら,神よ私を呪って下さい。

二万の勇敢なフランク人だけを率います。安全に峠をお通り下さい。私がある限り誰も恐れる必要はありません」

confound は「混乱させる,誤りを証明する,打ち負かす,呪う」です。confuse も「混乱させる,混同する」の他,古語では「破滅・没落させる」の意味があります。

LXIV

  The count Rollanz has mounted his charger.
  Beside him came his comrade Oliver,
  Also Gerins and the proud count Geriers,
  And Otes came, and also Berengiers,
  Old Anseis, and Sansun too came there;
  
Gerart also of Rossillon the fierce,
  And there is come the Gascon Engeliers.
  "Now by my head I'll go!" the Archbishop swears.
  "And I'm with you," says then the count Gualtiers,
  "I'm Rollant's man, I may not leave him there."
  A thousand score they choose of chevaliers.
                      AOI.

ローラン伯爵は自分の軍馬に乗る。彼の傍に盟友のオリヴィエがやって来た。ジェランと誇り高きジェリエ伯爵も。またオテもやって来た。またベレンジェも。老アンセイスも。またサンソンもやって来た。ルシヨンの獰猛なジェラール,そしてガスコーニュのアンジェリエも来ている。

「さあこの首に掛けて我も行かん!」と大司教が誓う。「我も行こうぞ」と次いでゴーティエ伯爵も言う。「我はローランの配下なり。ローランを見捨てはしない」

彼らは二万の騎士を選ぶ。

・人数を数えると丁度十二名です。ということでこの十二名がこのバージョンにおける「シャルルマーニュ十二臣将」(厳密には殿軍を務めた十二将)ですね。「大司教」はテュルパンでしょう。今一度列挙しておきます。

 ローランとオリヴィエ

 ジェランとジェリエ

 オテとベレンジェ

 (老)アンセイスと(老)ジェラール

 サンソンとアンジェリエ

 大司教テュルパンとゴーティエ

・気になったのは「ルシヨンのジェラール(Gerart of Rossillon)」です。サプコフスキが『ローランの歌』を知らぬはずはありません。「ルシヨンのジェラール」は「リヴィアのゲラルト(Geralt of Rivia)」のモデルではないでしょうか? the fierce も付いていて期待できますね。ということで彼が出て来たらゲラルトな顔で想像します😃 なおもう一つのバージョンでは,なぜかアンセイスに the fierce が付き,ジェラールに the old が付いていました。二人とも黄忠みたいな奴かもしれませんね。

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↓ルシヨンはここにある

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ガスコーニュはここ

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LXV

  Gualter del Hum he calls, that Count Rollanz;
  "A thousand Franks take, out of France our land;
  Dispose them so, among ravines and crags,
  That the Emperour lose not a single man."
  Gualter replies: "I'll do as you command."
  A thousand Franks, come out of France their land,
  At Gualter's word they scour ravines and crags;
  They'll not come down, howe'er the news be bad,
  Ere from their sheaths swords seven hundred flash.
  King Almaris, Belserne for kingdom had,
  On the evil day he met them in combat.
                      AOI.

オムのゴーティエをローラン伯爵は呼ぶ。「我が国フランスの一千のフランク人を率いてくれ。彼らを峡谷と絶壁に配置してくれ。皇帝が一人たりとも失わぬように」

ゴーティエは答える。「お前の指揮に従おう」 彼らの国フランスから来た一千のフランク兵は,ゴーティエの言葉に応えて峡谷や絶壁を急いで駆けてゆく。彼らは降りて来ない。どれほど戦況が悪化しても,七百の剣を鞘から抜くまでは。

ビネファルを治めるアルマリス王は,その悪しき日に彼らと戦った。

・「七百の剣を鞘から抜くまでは降りて来ない」の意味がよく分かりませんが,何となく伏兵かなと理解しました。二万の兵のうち一千を割ったわけですね。

・それ以上に分からなかったのは「アルマリス王」なる人物です。彼が治めるという Belserne はもう一つのバージョンでは Belferne です。そしてこの地名をネットで漁ると Binefar という別称に当たり,調べるとアラゴンにある地名のようです。マルシル王のいるサラゴサアラゴンの都ですので,アルマリスはマルシル王の味方でしょうか(本人だったり?)

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全軍の半分をやるというカール大帝の有難い申し出を断って二万の兵と十二名のパラディンが殿軍を務めることになり,戦闘準備が始まりました。

↓次回はこちら

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Twitter告知用あらすじ:ローランは義父ガヌロンの助言で自分が殿軍に命じられたのを知ると憤激するが,カール大帝の「軍の半分を任せる」という申し出を断り,二万の兵だけを率いると宣言。オリヴィエ,ジェラン,ジェリエ,オテ,ベレンジェ,アンセイス,サンソン,ジェラール,アンジェリエ,ゴーティエ,テュルパンがローランに付き従う。