フレイニャのブログ

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ローランの歌(8)

ガヌロンがブランカンドランに連れられてマルシル王の前にやって来た「ローランの歌(7)」の続きです。

XXXIV

  King Marsilies is turn'ed white with rage,
  His feathered dart he brandishes and shakes.
  Guenes beholds: his sword in hand he takes,
  Two fingers' width from scabbard bares the blade;
  And says to it: "O clear and fair and brave;
  Before this King in court we'll so behave,
  That the Emperour of France shall never say
  In a strange land I'd thrown my life away
  
Before these chiefs thy temper had essayed."
  "Let us prevent this fight:" the pagans say.

マルシル王は怒りで青白くなり,羽のついたダートを振り回し,震わせる。

ガヌロンはそれを見る。彼は手に剣を取り,鞘から指2本分の刃を見せ,剣に向かって語りかける。「明快に,公正に,勇敢に。宮廷の王の前ではそのように振る舞うのだ。フランスの皇帝に言わせはしないぞ。異国の地で私が命を投げ捨てたとは。お前の怒りがこれらの諸侯を試すまでは」

「争いを防ぐのだ」異教徒達は言う。

Before these chiefs thy temper had essayedBefore thy temper had essayed these chiefs と解しました。剣に話しかけているので thy temper は「剣の怒り」です。essay... は「……を試す」。「剣の怒りが,ここにいる諸侯を試す前に,私が命を投げ出したとは,シャルルマーニュに言わせはしない」という不穏なことをガヌロンが口走っているので,皆が慌てて「争いを止めよ」と言っているのだと思います。

XXXV

  Then Sarrazins implored him so, the chiefs,
  On the faldstoel Marsillies took his seat.
  "Greatly you harm our cause," says the alcaliph:
  "When on this Frank your vengeance you would wreak;
  Rather you should listen to hear him speak."
  "Sire," Guenes says, "to suffer I am meek.
  I will not fail, for all the gold God keeps,
  Nay, should this land its treasure pile in heaps,
  But I will tell, so long as I be free,
  What Charlemagne, that Royal Majesty,
  Bids me inform his mortal enemy."
  Guenes had on a cloke of sable skin,
  And over it a veil Alexandrin;
  These he throws down, they're held by Blancandrin;
  But not his sword, he'll not leave hold of it,
  In his right hand he grasps the golden hilt.
  The pagans say. "A noble baron, this."
                      AOI.

それでサラセン達は王に懇願し,マルシルは腰掛けに座った。

「そなたは我らの大義を傷つけておる」カリフはマルシルに言う。「そなたはそのフランク人に復讐を加えようとしているが,むしろ彼の言葉を聞くべきである」

「陛下」ガヌロンは言う。「私は大人しく耐えます。神が蓄える全ての金に代えても,いやこの土地がその宝を山のように積んだとしても,私は自由である限り,シャルルマーニュが,かの高貴なる皇帝が,その不倶戴天の敵に伝える言葉を言わずにはおれません」

ガヌロンは黒貂皮のマントとアレクサンドリアの布を地面に投げ捨てる。それをブランカンドランが拾う。

しかし剣はまだだ。彼は剣を手放そうとしない。彼は右手に金の柄を握っている。

異教徒達は言う。「これは立派な家臣だこと」

implored him に関しては implore は「懇願する」ですが him はガヌロンではなく,次行の Marsillies を指しています(もう一つのバージョンが urged the wrathful King になっています)

alcaliph は『ランダムハウス英和大辞典』に載っていませんでしたが,caliph は「カリフ」であるため,マルシル王のことかと思ったのですが,訳し進めるとマルシル王ではなく,王のおじだそうです。「お前は彼(=ガヌロン)の話を聞け」と忠告していることとも合います。もう一つのバージョンでは the Kalif となっています。でもカリフ(イスラム教世界の最高指導者)だとしたら,マルシル王より偉いですよね……

→ネットを漁ると「アルガリフ」という固有名詞になっていることが多いですね。でも the alcaliph と冠詞がついており固有名詞の見た目ではないのが気になります。the の付く地名は多いのですが(ブロンクススーダンなど)

en.wikipedia.org

your vengeance you would wreak の所では,wreak+vengeance で「復讐を加える」です。

should this land its treasure pile in heaps は,助動詞 should があり,動詞の候補は pile「積み重なる」しかありません。よって should this land pile its treasure in heaps = if this land should pile its treasure in heaps「万が一この国がその宝を山のように積んだならば/たとえこの国がその宝を山のように積んだとしても」と解せます。

his mortal enemy「彼(シャルルマーニュ)の不倶戴天の敵」とは眼前にいるマルシル王です。

XXXVI

  Before the King's face Guenes drawing near
  Says to him "Sire, wherefore this rage and fear?
  Seeing you are, by Charles, of Franks the chief,
  Bidden to hold the Christians' right belief.
  One half of Spain he'll render as your fief
  The rest Rollanz, his nephew, shall receive,
  Proud
parcener in him you'll have indeed.
  If you will not to Charles this tribute cede,
  To you he'll come, and Sarraguce besiege;
  Take you by force, and bind you hands and feet,
  Bear you outright ev'n unto Aix his seat.
  You will not then on palfrey nor on steed,
  Jennet nor mule, come cantering in your speed;
  Flung you will be on a vile sumpter-beast;
  Tried there and judged, your head you will not keep.
  Our Emperour has sent you here this brief."
  He's given it into the pagan's nief.

王の眼前にガヌロンは近づき,王に言う。「陛下,このように怒り恐れるのはどうしてです? 貴方はフランクの王シャルルから,キリスト教の正しい教えを信じるよう命ぜられているのです。

スペインの半分を貴方の封土にしてくれるそうです。残りは彼の甥,ローランに与えようとしています。彼は貴方の誇り高き共同相続人となるのです。

仮に貴方がこの貢物をシャルルに譲らなければ,大帝は貴方の所へやって来て,サラゴサを囲むでしょう。貴方を捕え,手足を縛るでしょう。真っ直ぐにアーヘンの彼の玉座へ貴方を運ぶでしょう。

そうすれば貴方は馬にも軍馬にも,驢馬にも騾馬にも乗って颯爽と駆けることはありません。貴方は見すぼらしい駄馬に乗せられるでしょう。

そこで裁判にかけられ,判決を下されて,貴方は首を保つことはできないでしょう。我らが大帝は貴方にこの書簡をもたらしました」

彼は異教徒の手に書簡を手渡す。

parcener は「共同相続人」。マルシルが降伏すればスペインの半分がマルシル,残り半分がローランのものになるためこう言っています。

cede は「譲る」です。concede とも言います。名詞・形容詞では “cess” という綴りになり,necessary は「譲れ(cess)ない(ne)」→「必要な」です。

・副詞 outright は「完全に,公然と,すぐさま」ですが,古語では「真っ直ぐに」がありますのでそう訳しました。

brief は古語では「書簡」。これが「ブリーフケース」の「ブリーフ」でしょう。

nief は『ランダムハウス英和大辞典』にも載っていませんでしたが,Wiktionary を引くと fist「拳」の意味があるようです。韻を踏むためにこのような語を用いたのでしょう。

XXXVII

  Now Marsilies, is turn'ed white with ire,
  He breaks the seal and casts the wax aside,
  Looks in the brief, sees what the King did write:
  "Charles commands, who holds all France by might,
  I bear in mind his bitter grief and ire;
  'Tis of Basan and 's brother Basilye,
  Whose heads I took on th' hill by Haltilye.
  If I would save my body now alive,
  I must despatch my uncle the alcalyph,
  Charles will not love me ever otherwise."
  After, there speaks his son to Marsilye,
  Says to the King: "In madness spoke this wight.
  So wrong he was, to spare him were not right;
  Leave him to me, I will that wrong requite."
  When Guenes hears, he draws his sword outright,
  Against the trunk he stands, beneath that pine.

今やマルシルは怒りで真っ青になっている。封印を破り,蠟を投げ捨てる。書簡を覗き込み,大帝が書いた言葉を見る。

「フランス全土を力で押さえるシャルルは命令する。彼の辛い悲しみと怒りを忘れるなと。それはバサンと兄弟のバジーレのものだ。二人の首を私はハルティレロの山で取った。もし私がこの体を生かしたければ,私はおじのカリフを彼の下へ派遣せねばならない。さもなければシャルルは決して私を許さないだろう」

その後,彼の息子がマルシルに話しかける。彼は王に言う。「この男はとち狂ってこんなことを言っています。彼は過ちを犯しました。彼を許すのは間違いでしょう。この男は私にお任せ下さい。その過ちに報いてやります」

ガヌロンはそれを聞くと,直ぐさま剣を抜く。木の幹を背に彼は立つ。松の木の下に。

ire /aɪə(r)/ はこの節に2度登場しますが「怒り,憤怒」です。

Charles commands... I bear in mind... の2行は初め気づかなかったのですが1文に繋がっており,Charles commands (that) I (should) bear in mind「私が bear in mind するよう命令する」です。

'Tis は It is です。

I must despatch my uncle the alcalyph の部分はもう一つのバージョンでは The Kalif, my good uncle, I must send でした。my uncle と the alcalyph は同格であり,「おじのカリフを派遣(despatch=dispatch)せねばならぬ」です。マルシル王はカリフの甥ということになりますね。

↓この物語のカリフが誰だか不明だが,史実ではカール大帝即位時(800年)のカリフ(アミール)はハカム1世(後ウマイヤ朝

ja.wikipedia.org

後ウマイヤ朝。地図を見ると,イベリア半島にしか領土がありませんね。

ja.wikipedia.org

wight は RPG にも出てきて,なんとなく幽霊的な印象ですが,古くは「人間」を意味したようです。なお this wight「この男」とはカール大帝ではなく,ガヌロンを指しています。

XXXVIII

  The King is gone into that orchard then;
  With him he takes the best among his men;
  And Blancandrins there shews his snowy hair,
  And
Jursalet, was the King's son and heir,
  And the alcaliph, his uncle and his friend.
  Says Blancandrins: "Summon the Frank again,
  In our service his faith to me he's pledged."
  Then says the King: "So let him now be fetched."
  He's taken Guenes by his right finger-ends,
  And through the orchard straight to the King they wend.
  Of treason there make lawless parliament.
                      AOI.

それで王はその果樹園に入って行く。彼の後に最良の部下がついて行く。そしてブランカンドランは雪のような白髪を見せてついて行く。

そしてジュルファルは王の息子で世継ぎだった。そしてカリフは彼のおじで友人だ。

ブランカンドランは言う。「あのフランク人を呼び戻しましょう。彼は私に誓いました。我々に仕えると」 すると王は言う。「では,奴を連れてこい」

彼はガヌロンの右手の先を掴む。そして果樹園を通って真っ直ぐ王の下へ進む。そこで無法なる裏切りの話し合いが起こるのだ。

・マルシルの息子だという Jursalet はもう一つのバージョンでは Turfaleu でした。また英語版 Wikipedia では Jurfaleu the Blond です。ジュルサレ,テュルファル,ジュルファル,どれがいいのでしょうか。

wend は古語で,「進む」です(wend - wended - wended or wend - went - went)。何故 go の過去形が went なのか,これで分かりましたね!

XXXIX

  "Fair Master Guenes," says then King Marsilie,
  "I did you now a little trickery,
  Making to strike, I shewed my great fury.
  These sable skins take as
amends from me,
  Five hundred pounds would not their worth redeem.
  To-morrow night the gift shall ready be."
  Guene answers him: "I'll not refuse it, me.
  May God be pleased to shew you His mercy."
                      AOI.

「ガヌロン殿」マルシル王は言う。「私は先程,ちょっとした悪戯をしたのだよ。ダーツを投げるふりをして,大きな怒りを示したのだ」

この黒貂の毛皮は私からの償いとして取っておくれ。500ポンドは下らない代物だ。明日の夜,贈り物を用意させよう」

ガヌロンは答える。「では受け取りましょう。神が貴方をお許しになりますように」

amends は「償い」です。amend「改める,修正する」や mend「改める,修繕する」からも予想できるでしょう。

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これで両者の関係も落ち着いたので,次回,ローランを討ち取る策略を話し合うのでしょうか。次回をお楽しみに!

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Twitter告知用あらすじ:マルシル王が落ち着くと,ガヌロンはシャルルマーニュの書簡を手渡す。その内容に王の息子がガヌロンを殺すように言うと,ガヌロンは剣を抜き木の下に立つ。ブランカンドランが彼を連れ戻し,王は謝罪する。