フレイニャのブログ

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ローランの歌(31) ローランの昇天

ローランが岩を斬りつけてデュランダルを壊そうとした「ローランの歌(30)」の続きです。

CLXXII(172)

  Rollant hath struck the sardonyx terrace;
  The steel cries out, but broken is no ways.
  So when he sees he never can it break,
  Within himself begins he to complain:
  "Ah! Durendal, white art thou, clear of stain!
  Beneath the sun reflecting back his rays!
  In Moriane was Charles, in the vale,
  When from heaven God by His angel bade
  Him give thee to a count and capitain;
  Girt thee on me that noble King and great.
  I won for him with thee Anjou, Bretaigne,
  And won for him with thee Peitou, the Maine,
  And Normandy the free for him I gained,
  Also with thee Provence and Equitaigne,
  And Lumbardie and all the whole Romaigne,
  I won Baivere, all Flanders in the plain,
  Also Burguigne and all the whole Puillane,
  Costentinnople, that homage to him pays;
  In Saisonie all is as he ordains;
  With thee I won him Scotland, Ireland, Wales,
  England also, where he his chamber makes;
  Won I with thee so many countries strange
  That Charles holds, whose beard is white with age!
  For this sword's sake sorrow upon me weighs,
  Rather I'ld die, than it mid pagans stay.
  Lord God Father, never let France be shamed!"

ローランは赤縞瑪瑙の巨岩に斬りつけた。刃は悲鳴を上げるが,どうしても壊れない。それでどうしても壊せないと分かると,心の中で不平を始める。

「ああデュランダルよ,白くて汚れの無い剣よ。君は太陽の下で日光を照り返しているな。シャルルがモリアンの谷にいた時,天から神が,天使を遣わして君を伯爵の勇者に渡すよう命じた。かの気高き大帝が君を僕の腰に佩かせてくれた。僕はシャルルのため,君と共にアンジュー,ブルターニュを手に入れた。そしてポワトゥとメーヌを手に入れた。そしてノルマンディを解放した。そしてプロヴァンスアキテーヌも。そしてロンバルディアとロメーヌも。バヴァリアフランダースも手に入れた。ブルゴーニュポーランドコンスタンチノープルは臣従の礼を取ってきた。サクソンも皇帝の命ずるままだ。君と共にスコットランドアイルランドウェールズイングランドも征服して皇帝はそこに議会を置いている。君と共に僕は数多くの異国の土地を勝ち取ってそれらは白髭シャルルの土地だ。この剣の為に僕は涙を流すのだ。この剣が異教徒の手に留まるくらいなら死んだ方がましだ。父なる神よ,フランスに恥をかかせないでおくれ!」

sardonyx はオニキスの変種です。直後の terrace は様々な意味がありますが,もう一つのバージョンでは rock になっていることから「巨岩」と訳します。

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girtgird「腰にまとう,身にまとう」の過去形です。ここでは that noble King girt thee on me なので girt は「身につけさせた」ということですね。girdle「帯,ガードル」と関係してそうです。

Peitou はもう一つのバージョンでは Poitou「ポワトゥ」です。カール大帝の祖父カール・マルテルがサラセン軍を破った有名な「トゥール・ポワティエの戦い」があったポワティエがあるのがポワトゥですね。なお細かいことを言うとフランス語の oi は「オワ」ではなく「ワ」なので,「ポワトゥ」より「プワトゥ」の方が近い気がします(/pwɑːtuː/)

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・フランスのメーヌはアメリカのメイン州(Maine)の由来です(異説あり)

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バヴァリアバイエルン)はフランスではなくドイツ(州都ミュンヘン)ですが,フランク王国はドイツにも領土が跨っていました。フランダース(フランドル)も今はベルギーで,このフランダース「フラン」はフランク,フランスに由来します。

・Puillane (Puillanie) がどうしても分からず,プロジェクト・グーテンベルクで他のバージョンを当たったところエスペラント版(Rolandkanto)が見つかりまして,そこではPolujon となっていました。これを Wiktionary で引くとまさかのポーランド(Polujo)でした。明らかにフランク王国の版図を超えていますがコンスタンチノープルイングランドまで出てくるので良いのでしょう。なお現代フランス語でポーランドは Pologne(ポローニュ)だそうで,ラテン語の Polonia から来ているそうです。

CLXXIII

  Rollant his stroke on a dark stone repeats,
  And more of it breaks off than I can speak.
  The sword cries out, yet breaks not in the least,
  Back from the blow into the air it leaps.
  Destroy it can he not; which when he sees,
  Within himself he makes a plaint most sweet.
  "Ah! Durendal, most holy, fair indeed!
  Relics enough thy golden hilt conceals:
  Saint Peter's Tooth, the Blood of Saint Basile,
  Some of the Hairs of my Lord, Saint Denise,
  Some of the Robe, was worn by Saint Mary.
  It is not right that pagans should thee seize,
  For Christian men your use shall ever be.
  Nor any man's that worketh cowardice!
  Many broad lands with you have I retrieved
  Which Charles holds, who hath the great white beard;
  Wherefore that King so proud and rich is he."

ローランは色黒の岩へ剣撃を繰り返す。そして数え切れないほど岩を壊す。剣は悲鳴を上げるが,少しも壊れず,剣は空中に跳ね返る。剣を壊せないと分かると,彼は心の中で優しく不平を言う。

「ああデュランダルよ。実に神々しく素晴らしい剣だ! 君の金の柄の中には十分な聖遺物が隠されている。聖ペトロの歯,聖バシルの血,聖ドニの毛髪の一部,聖母マリアのローブの一部だ。異教徒に君を奪われるわけにはいかんのだ。キリスト教徒の為に使われねばならんのだ。卑怯な者の手に渡らせるわけにはいかんのだ。多くの広大な土地を君と共に取り返してきた。それらは偉大なる白髭,シャルルマーニュの土地だ。だから誇り高く偉大な皇帝になれたのだ」

・聖ペトロは十二使徒(イエスの高弟)の一人です

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・聖バシル(聖ワシリイ)は以下の人物です。

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・聖ドニは以下の人物です。

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CLXXIV

  But Rollant felt that death had made a way
  Down from his head till on his heart it lay;
  Beneath a pine running in haste he came,
  On the green grass he lay there on his face;
  His olifant and sword beneath him placed,
  Turning his head towards the pagan race,
  Now this he did, in truth, that Charles might say
  (As he desired) and all the Franks his race;—
  'Ah, gentle count; conquering he was slain!'—
  He owned his faults often and every way,
  And for his sins his glove to God upraised.
                      AOI.

しかしローランは死が頭から心臓まで達したことを感じた。松の木の下に急いで走っていき,草の上にうつ伏せに横たわる。自分の体の下に角笛と剣を置いて。異教徒の方に顔を向け,実際にこれを行った。シャルルが,全てのフランク人がこう言うことを望んで。

「ああ優しい伯爵よ。征服者は亡くなった」

彼は自らの過ちを認め,罪を赦してもらうため手袋を神に掲げた。

own の注意すべき意味として「(罪)を認める」というのがあります。own は「所有する」ですから「自分の物である」→「自分の罪である」となるわけです。own that... も「……であることを認める(admit that...)」です。

CLXXV

  But Rollant feels he's no more time to seek;
  Looking to Spain, he lies on a sharp peak,
  And with one hand upon his breast he beats:
  "Mea Culpa! God, by Thy Virtues clean
  Me from my sins, the mortal and the mean,
  Which from the hour that I was born have been
  Until this day, when life is ended here!"
  Holds out his glove towards God, as he speaks
  Angels descend from heaven on that scene.
                      AOI.

しかしローランはこれ以上時間がないことを感じる。スペインの方を向き,鋭い峰の上に寝そべって,片手で胸を叩く。

「私の過ちを!神よ,その恩寵で私の罪,諸々を赦したまえ。生まれた時から生命が終わるこの日までなしてきた罪を!」

手袋を神に向けて差し出し,話していると天から天使たちが降りて来る。

Mea Culpa は「私の罪,私の過ち」といった意味のラテン語だそうです。Wikipedia の以下の記事によると胸を叩きながら(beating the breast)言うそうです。映画などでそういうシーンを見たことがある人は教えて下さい。

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CLXXVI

  The count Rollanz, beneath a pine he sits;
  Turning his eyes towards Spain, he begins
  Remembering so many divers things:
  So many lands where he went conquering,
  And France the Douce, the heroes of his kin,
  And Charlemagne, his lord who nourished him.
  Nor can he help but weep and sigh at this.
  But his own self, he's not forgotten him,
  He owns his faults, and God's forgiveness bids:
  "Very Father, in Whom no falsehood is,
  Saint Lazaron from death Thou didst remit,
  And Daniel save from the lions' pit;
  My soul in me preserve from all perils
  And from the sins I did in life commit!"
  His right-hand glove, to God he offers it
  Saint Gabriel from's hand hath taken it.
  Over his arm his head bows down and slips,
  He joins his hands: and so is life finish'd.
  God sent him down His angel cherubin,
  And Saint Michael, we worship in peril;
  And by their side Saint Gabriel alit;
  So the count's soul they bare to Paradis.

ローラン伯爵は松の下に座る。両眼をスペインに向け,多くの様々なことを思い出す。征服しに行った多くの土地のこと。甘美なフランスのこと。仲間の勇士達のこと。そして彼を育てた主君シャルルマーニュのこと。これに彼は涙を流し嘆くしかできない。しかし自分自身のことは忘れていない。自分自身の罪のことを。神の赦しを請う。

「偽りなき真の父よ。貴方は聖ラザロを死から連れ帰し給うた。そしてダニエルをライオンの罠から救い給うた。私の魂をあらゆる危機から守り給え。私が生涯に犯した罪から!」

自分の右手の手袋を,彼は神に差し出す。聖ガブリエルが彼の手からそれを取る。彼の腕に頭をもたれかけ,両手を合わせる。そして彼は息を引き取る。神は天使ケルビムと,危機の時に崇める聖ミカエルを遣わす。そして二人の側に聖ガブリエルが並ぶ。こうして伯爵の魂を彼らは天国へ運んでいく。

・ラザロについて,以下の記事にこうあります。“ラザロが病気と聞いてベタニアにやってきたイエスと一行は、ラザロが葬られて既に4日経っていることを知る。イエスは、ラザロの死を悲しんで涙を流す。イエスが墓の前に立ち、「ラザロ、出てきなさい」というと、死んだはずのラザロが布にまかれて出てきた。このラザロの蘇生を見た人々はイエスを信じ、ユダヤ人の指導者たちはいかにしてイエスを殺すか計画し始めた”

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・ダニエルについて,以下の記事にこうあります。“ペルシアがバビロンを征服したのち、メディア人ダレイオスもダニエルを重用したが、他の家臣の陰謀でダニエルはライオンの洞窟に投げ込まれることになった。しかし、ダニエルは神の力によってライオンに襲われることなく、逆にダニエルを陥れようとした者たちがライオンの餌となった”

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・ミカエルは危難・災難の時に現れるので,peril のような語と共に説明されることがあります。

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私が読んでいるバージョンでは全291連あります。ローランが天国へ行ったのは176連目ですから,60.48%の所ということになります。なぜ主人公が亡くなった時点でまだ6割なのでしょうか。それは読み進めていただければお分かりになると思います。

↓次回はこちら

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