ローラン達の遺体を棺に入れてフランスに帰還しようとしたらバリガンの使者に挑発された「ローランの歌(37)」の続きです。
CCXV(215)
First before all was armed that Emperour,
Nimbly enough his iron sark indued,
Laced up his helm, girt on his sword Joiuse,
Outshone the sun that dazzling light it threw,
Hung from his neck a shield, was of Girunde,
And took his spear, was fashioned at Blandune.
On his good horse then mounted, Tencendur,
Which he had won at th'ford below Marsune
When he flung dead Malpalin of Nerbune,
Let go the reins, spurred him with either foot;
Five score thousand behind him as he flew,
Calling on God and the Apostle of Roum.
AOI.
皆に先んじてその皇帝は皆の前で武装した。素早く鉄のシャツを身につけ,兜の緒を締め,ジョワユーズを腰に佩いた。その剣の輝きは眩い光を放つ太陽を凌ぐ程だった。首からはジロンド産の盾をぶら下げ,ブランデューンで鍛造された槍を取った。それから名馬タンサンドールに跨った。それはマルスーンの下流の浅瀬付近で勝ち取ったものだった。ネルビューンのマルパランを討ち取った時だ。
手綱を放し,両足で拍車を当て,10万の兵を残して真っ先に駆け出す。神の名とローマの十二使徒の名を叫びながら。
・固有名詞だらけで白目になりました。適当にカタカナを当てたものが多いです。
・nimble は「素早い」,indue=endue は「身につける」です。
・Girunde は初め盾の名かと思ったのですが,of があることから「……(産)の」と解しました。Girunde に一番近いフランスの地名は Gironde(ジロンド)でした(ジロンド派のジロンド)
・カール大帝の名馬 Tencendur は「タンサンデュール,タンサンドゥール」のように読めますが,日本で「タンサンドール」という競走馬が登録されていたことからこちらで定着していると判断しました。
・either foot は「片方の足(で拍車を当てた)」ではないでしょう。side,hand のようなニコイチの存在に either が付く場合は「両方の」の意味になります。
CCXVI
Through all the field dismount the Frankish men,
Five-score thousand and more, they arm themselves;
The gear they have enhances much their strength,
Their horses swift, their arms are fashioned well;
Mounted they are, and fight with great science.
Find they that host, battle they'll render them.
Their gonfalons flutter above their helms.
When Charles sees the fair aspect of them,
He calls to him Jozeran of Provence,
Naimon the Duke, with Antelme of Maience:
"In such vassals should man have confidence,
Whom not to trust were surely want of sense;
Unless the Arabs of coming here repent,
Then Rollant's life, I think, we'll dearly sell."
Answers Duke Neimes: "God grant us his consent!"
AOI.
フランク兵は至る所で馬を降り,10万以上の兵が武装する。彼らの装具は彼らの力を大いに高め,彼らの軍馬は素早く,彼らの武具は装飾が輝く。再び馬に乗り,巧みな技で戦う。敵を見つけると戦いを仕掛ける。彼らの頭上には戦旗がはためく。彼らの壮観をシャルルが眺めると,プロヴァンスのジョズラン,ネーム公,マイアンスのアンテルムを呼び寄せる。
「このような家臣たちを信頼すべきなのだ。信頼しない者は分別を欠いていると言わざるを得ぬ。アラブ人がこちらに来たことを後悔せぬ限り,ローランの命はきっと高くつくぞ」
ネーム公は答える。「神のご加護があらんことを!」
・science は「科学」ですが「識ること」といった意味が原義で,『ジーニアス英和辞典』には「技,術」という訳語が載っています。例えば omniscience(オムニシャンス)は「全知(全てを識ること)」という意味です。
・gonfalons は今まで数回登場していますが,以下のような物です。
・Jozeran(ジョズラン?)はもう一つのバージョンでは Joseran(ジョスラン?),Antelme(アンテルム?) はもう一つのバージョンでは Anselme(アンセルム?)です。 そう言えば映画『ロック・ユー』にジョスリンというヒロインが出て来ましたね(演シャニン・ソサモン)
・Whom not to trust were surely want of sense はもう一つのバージョンでは And mad indeed who doubts of the event となっており,難解ですが Whom not to trust は who doubts of the event,surely want of sense(きっと分別を欠いている)は mad indeed(実に頭がおかしい)に対応しているようですね。
・the Arabs of coming here repent は「coming here のアラブ人が悔やむ」ではなく,the Arabs repent of coming here「アラブ人が coming here を悔やむ」です。つまり of coming here は the Arabs ではなく repent に繋がります。repent の基本語法の 1 つが repent of...「……を悔やむ」であることから分かります。
・Rollant's life, we'll dearly sell「ローランの命を高く売りつける」というのは「ローランの仕返しを思い切りする」ということでしょう。
CCXVII
Charles hath called Rabel and Guineman;
Thus said the King: "My lords, you I command
To take their place, Olivier and Rollant,
One bear the sword and the other the olifant;
So canter forth ahead, before the van,
And in your train take fifteen thousand Franks,
Young bachelors, that are most valiant.
As many more shall after them advance,
Whom Gebuins shall lead, also Lorains."
Naimes the Duke and the count Jozerans
Go to adjust these columns in their ranks.
Find they that host, they'll make a grand attack.
AOI.
シャルルはラベルとギヌマンを呼び,このように言った。
「卿らに命ずる。オリヴィエとローランの地位を引き継ぐのだ。一方は剣を,一方は角笛を持て。先陣を切って駆けよ。卿らの後には1万5千のフランク兵を引き連れよ。若い未婚の壮士達をだ。最も勇敢だからな。遥かに多くがその後に続く。それらはジェボワンとローランが指揮せよ」
ネーム公とジョゼラン伯爵は全軍の調整役に当たる。敵軍を発見すれば,大攻勢を仕掛けるのだ。
・in one's train は「……の後に続いて」です。
・Lorains(もう一つのバージョンでは Laurant)は「L 音で始まるローラン」ということですかね。
・「全軍の調整役に当たる」はチョー適当に訳しました笑 adjust が「調整する」だから大きく外れてはいないでしょう。
CCXVIII
Of Franks the first columns made ready there,
After those two a third they next prepare;
In it are set the vassals of Baiviere,
Some thousand score high-prized chevaliers;
Never was lost the battle, where they were:
Charles for no race neath heaven hath more care,
Save those of France, who realms for him conquered.
The Danish chief, the warrior count Oger,
Shall lead that troop, for haughty is their air.
AOI.
フランク軍の最初の二隊が準備をし,その二隊のあとに第三隊が準備をする。そこにはバヴァリアの家臣達が置かれる。その数は三万に達し,敵を前に尻込みしない者達だ。シャルルにとって,自分の為に王国を勝ち取ったフランスの諸族を除いて,彼らほど大切な一族はいない。デンマークのオジェ伯がその軍勢を率いる。彼らの士気は高い。
・columns は「縦列」ですがもう一つのバージョンでは cohorts「隊」となっています。
・ Some thousand score high-prized chevaliers; Never was lost the battle, where they were はもう一つのバージョンの Their numbers mount to thirty thousand knights who ne'er would blench before the foe を参考にしました。mount to thirty thousand は「三万に達する」,ne'er would blench は「決して尻込みしない」です。バヴァリア(バイエルン)兵は勇敢なのでしょう。
・デンマークのオジェは「その11」で言及されています。ガヌロンがシャルルに「殿軍はローランに」と進言するのですが,逆に先頭を任されたのがオジェです。
CCXIX
Three columns now, he has, the Emperour Charles.
Naimes the Duke a fourth next sets apart
Of good barons, endowed with vassalage;
Germans they are, come from the German March,
A thousand score, as all said afterward;
They're well equipped with horses and with arms,
Rather they'll die than from the battle pass;
They shall be led by Hermans, Duke of Trace,
Who'll die before he's any way coward.
AOI.
これでカール大帝は三隊を持った。次にネーム公が第四隊を分ける。忠実で優秀な家臣から成る隊だ。彼らはゲルマンの辺境からやって来たゲルマン人で,総勢二万の軍勢だ。彼らは馬も武具も調っており,戦から逃げるよりはむしろ死を選ぶ者達だ。彼らはトラキア公ヘルマンが率いることとなった。臆病さを示すくらいならむしろ死を選ぶ猛者である。
・この March は「辺境,国境地帯」という意味で Wiktionary に載っており,marches の形なら『ジーニアス英和辞典』にも載っています。
・Trace はもう一つのバージョンでは Thrace「トラキア」です。
CCXX
Naimes the Duke and the count Jozerans
The fifth column have mustered, of Normans,
A thousand score, or so say all the Franks;
Well armed are they, their horses charge and prance;
Rather they'ld die, than eer be recreant;
No race neath heav'n can more in th'field compass.
Richard the old, lead them in th'field he shall,
He'll strike hard there with his good trenchant lance.
AOI.
ネーム公とジョズラン拍は第五隊を召集した。ノルマン人の隊だ。二万人だとフランク兵達はみな言う。武装は良く,馬は威勢よく突進し,跳ねる。臆病者になる前に死を選ぶ者達だ。この天の下,彼らに戦場で匹敵する部族はいまい。老リシャールが戦場で彼らを率いる。戦場では優れた鋭い大槍を大いに振るうであろう。
・ここへ来てようやく「調整」の意味が解りました。隊分けのことを言っていたのですね。シャルルは二人に軍の編成を任せたのでしょう。muster はここでは「召集する」です。
CCXXI
The sixth column is mustered of Bretons;
Thirty thousand chevaliers therein come;
These canter in the manner of barons,
Upright their spears, their ensigns fastened on.
The overlord of them is named Oedon,
Who doth command the county Nevelon,
Tedbald of Reims and the marquis Oton:
"Lead ye my men, by my commission."
AOI.
第六隊はブレトン人から召集される。三万の騎兵がそこに入る。軍旗を付けた槍を直立させて馬を駆ける。彼らの大将はウドゥンと言う。ネヴロン伯,ランスのテドバルド,オトン侯爵を指揮する。「余に代わって卿らが余の兵を率いよ」
・ブレトン人とはブリトン人(英国人)ではなくブルターニュ人です。なお総数の thirty thousand がもう一つのバージョンでは forty thousand となっており,数がずれて来そうですね……
・Oedon の oe は口を丸めながら「エ」を言おうとすると出る音で「エ」と「ウ」の中間みたいな音ですかね。
CCXXII
That Emperour hath now six columns yare
Naimes the Duke the seventh next prepares
Of Peitevins and barons from Alverne;
Forty thousand chevaliers might be there;
Their horses good, their arms are all most fair.
They're neath a cliff, in a vale by themselves;
With his right hand King Charles hath them blessed,
Them Jozerans shall lead, also Godselmes.
AOI.
これで皇帝は六軍を準備させた。ネーム公は第七軍を準備する。ポワトゥとオヴェルネの家臣達の軍だ。四万の騎兵がそこに入る。馬は良質で,武具もみな優れている。彼らは崖下の,谷で独立して待機する。カール大帝はその右手で彼らを祝福する。彼らを率いるのはジョゼランと,ゴドセルムだ。
・yare は prepared「準備ができて」です。
・Peitevins をググると Poitevin がヒットして「ポワトゥ関連」とあります。そう言えば第31回でポワトゥが出てきた時も Peitou でした。
・Alverne をググると Grand-Auverné(グラントヴェルネ)という地名が出て来ました。これで正しいのならここはロワール=アトランティク県に含まれ,同県の県庁所在地はナントです。
↓ポワトゥはここですので,上と近いですね。なお西北に突き出してる角のような部分がブルターニュ(第六軍)です。
・by themselves は「独りで(alone)」です。他の軍と離れて遊撃隊をするのでしょうか。
CCXXIII
And the eighth column hath Naimes made ready;
Tis of Flamengs, and barons out of Frise;
Forty thousand and more good knights are these,
Nor lost by them has any battle been.
And the King says: "These shall do my service."
Between Rembalt and Hamon of Galice
Shall they be led, for all their chivalry.
AOI.
そして第八軍をネームは準備した。これはフラマン人とフリース人出身の家臣だ。四万以上の優れた騎士から成り,いかなる戦いにも敗れたことはない。
そして王は言う「余の為に戦わせよ」 ランバルトとガリシアのハモンが指揮する。
・Flamengs と Frise は「フラマン人(Flemings)」と「フリース人(Frisians)」でしょう。フラマン人は主にフランダース(フランドル)の住民です。フリース人は現在のオランダの沿岸に住み,屈強で金髪とあるので,ヴァイキング的なイメージでよいでしょう。
・Nor lost by them has any battle been は文法的に非常に興味深い一文ですね。lose a battle「戦闘に負ける」がポイントです。They lost a battle「彼らは戦闘に敗れた」→受け身にすると A battle was losy by them となり,No battles have been lost by them「彼らは戦闘に敗れたことはない」が爆誕します。
・Galice がガリシアなら以下の場所です。
CCXXIV
Between Naimon and Jozeran the count
Are prudent men for the ninth column found,
Of Lotherengs and those out of Borgoune;
Fifty thousand good knights they are, by count;
In helmets laced and sarks of iron brown,
Strong are their spears, short are the shafts cut down;
If the Arrabits demur not, but come out
And trust themselves to these, they'll strike them down.
Tierris the Duke shall lead them, of Argoune.
AOI.
ネームとジョズラン伯爵は第九軍に分別のある人員を配置する。ロートリンゲンとブルゴーニュの人員だ。総勢五万の優れた騎士から成る。兜の緒をしっかりと締め,茶色の鉄のシャツを着こむ。槍は強力で,槍の柄は短く切ってある。もしアラブ人が尻込みせず出てくれば,彼らが打ち破るであろう。アルゴンヌのティエリ公が彼らを率いる。
・Lotherengs はロレーヌ(ロートリンゲン),Borgoune はブルゴーニュ(ブルグント)でしょう。両者が互いに近いことも参考になります。もう一つのバージョンではLorraine and Burgundy です。
・アルゴンヌはこの辺ですから,ブルゴーニュに近いですね。
CCXXV
The tenth column is of barons of France,
Five score thousand of our best capitans;
Lusty of limb, and proud of countenance,
Snowy their heads are, and their beards are blanched,
In doubled sarks, and in hauberks they're clad,
Girt on their sides Frankish and Spanish brands
And noble shields of divers cognisance.
Soon as they mount, the battle they demand,
"Monjoie" they cry. With them goes Charlemagne.
Gefreid d'Anjou carries that oriflamme;
Saint Peter's twas, and bare the name Roman,
But on that day Monjoie, by change, it gat.
AOI.
第十軍はフランスの家臣から成る。十万の優れた将達だ。四肢は強健,容貌は誇りに溢れ,頭は雪のように白く,髭も真っ白だ。裏打ちされたシャツを着込み,鎖帷子を身につけて,脇にはフランス産とスペイン産の剣を佩き,様々な紋章の立派な盾を持つ。素早く馬に跨り,戦いをと声高に叫び,「モンジョワ」の声を上げる。彼らと共に進むのはシャルルマーニュだ。ジョフロワ・ダンジューが
・doubled sarks を見て「シャツの二枚重ね?」と思ったのですが,『ランダムハウス英和大辞典』を引くと double には「衣服に別の素材で裏打ちする,飾りを付ける」というのがあります。
・オリフラムはウィキペディアでは聖ペトロではなく聖ドニ,サンドニ修道院のものとなっていますね。
↓この記事のアイキャッチ画像は以下の記事にあります
・以下がサン=ドニ。ここに興味深い事が書いてありました “やがて,ディオニュシウスの名は,フランス軍の鬨(とき)の声(Montjoie Saint-Denis,モンジョワ・サン=ドニ。『我らの喜びサン=ドニよ』)に使われるようになった。彼の墓所に奉献された旗(Oriflamme)は,軍旗となり,フランスの国旗となった” オリフラムとサン=ドニ,そしてモンジョワの関係が明記されていますね。ところでサン=ドニにはこのような伝説もあります “『黄金伝説』によると,ディオニュシウスは,首を斬り落とされた後,それを拾い上げ,説教をしながら数キロメートルを歩いたという”
↓自分の首を持っている像があります
==
今回は第十軍まで訳し切りたかったので,最多の11連(215~225)分進みました。225/291連で,77.3%まで来ました。
↓次回はこちら