ガヌロンがマルシル王にローランとオリヴィエの謀殺を持ちかけた「ローランの歌(9)」の続きです。
XLVI (46)
Said Marsilie — but now what more said they? —
"No faith in words by oath unbound I lay;
Swear me the death of Rollant on that day."
Then answered Guene: "So be it, as you say."
On the relics, are in his sword Murgles,
Treason he's sworn, forsworn his faith away.
AOI.
マルシルは言った。これ以上何を言わんや。「誓いによって縛られない言葉を私は信じぬ。その日にローランがが死ぬと誓えるか」
するとガヌロンは答える。「そう仰るなら,よろしい」 自らの剣ミュルグレスに誓う。裏切りを誓い,彼は自らの忠義を捨てたのだ。
・forsworn his faith away については forswear が「偽証する,誓って断つ」の2つの意味があり,今回は「自らの忠義」という目的語があることから「誓って断つ」と取りました。もう一つのバージョンでは The treason swore; thus forfeited himself「裏切りを誓い,かくして自らを失った」となっています。
XLVII
Was a fald-stool there, made of olifant.
A book thereon Marsilies bade them plant,
In it their laws, Mahum's and Tervagant's.
He's sworn thereby, the Spanish Sarazand,
In the rereward if he shall find Rollant,
Battle to himself and all his band,
And verily he'll slay him if he can.
And answered Guenes: "So be it, as you command!"
AOI.
象牙製の腰掛け椅子があった。マルシルはその上に本を置かせた。その中に彼らの法,マホメットとターマガントの掟が書いてあった。
スペインのサラセンはそれにかけて誓う。もしローランを殿軍に見出せば,彼自身と彼の軍団に戦を仕掛け,可能なら確かに彼を殺すと。
そしてガヌロンは答える。「それで宜しかろう,御命令のままに!」
・ターマガント(テルヴァガン)はイスラム教徒が信じているとヨーロッパ人が信じた神の名ですが,英駆逐艦に「ターマガント」があるのには驚きました。
XLVIII
In haste there came a pagan Valdabrun,
Warden had been to King Marsiliun,
Smiling and clear, he's said to Guenelun,
"Take now this sword, and better sword has none;
Into the hilt a thousand coins are run.
To you, fair sir, I offer it in love;
Give us your aid from Rollant the barun,
That in rereward against him we may come."
Guenes the count answers: "It shall-be done."
Then, cheek and chin, kissed each the other one.
マルシル王の護衛だった異教徒のヴァルデブロンが急ぎやって来る。明るく微笑んでガヌロンに言う。「さあこの剣をお取り下さい。これほど良い剣を持つ者はおりません。
柄には千枚ものコインが入っています。ガヌロン殿,この剣を差し上げましょう。ローラン伯爵から我々をお助け下さい。殿軍にいる彼を見つけられるように」
ガヌロン伯は答える。「そうしましょうぞ」 そして両者は頬と顎にキスをしあう。
・Valdabrun は「イアペトゥスの地形一覧」に載っているヴァルデブロン (Valdebron) と取りました。
・Into the hilt a thousand coins are run「千枚の硬貨が剣の柄に走っている」と重くて仕方がないと思い,もう一つのバージョンを見ると,the hilt alone is worth More than a thousand marks「柄だけで千マルク以上の価値がある」となっています。千マルク以上の価値がある宝石が埋め込まれているのでしょう。Wikipedia によると「マルク」的名称は9世紀には見られるようです。
・That in rereward against him we may come は so that S may V「S が V できるように」構文です(文語では so を略せる)。(so) that we may come against him in rereward「殿軍(rereward=rearward)にいる彼(ローラン)に come against できるように」です。
XLIX
After there came a pagan, Climorins,
Smiling and clear to Guenelun begins:
"Take now my helm, better is none than this;
But give us aid, on Rollant the marquis,
By what device we may dishonour bring."
"It shall be done." Count Guenes answered him;
On mouth and cheek then each the other kissed.
AOI.
そのあと異教徒のカリムポリンがやって来た。明るく微笑んでガヌロンに話しかけた。「この兜をお受け取り下さい。これほどの兜はありません。
ローラン伯爵から我々をお助け下さい。どうやって彼に恥をかかせれば良いでしょう?」
「お任せ下さい」とガヌロン伯爵は彼に答える。そして喉元と頬にキスをし合った。
・Climorins は「イアペトゥスの地形一覧」のカリムポリン (Climborin) と解釈しました。
L (50)
In haste there came the Queen forth, Bramimound;
"I love you well, sir," said she to the count,
"For prize you dear my lord and all around;
Here for your wife I have two brooches found,
Amethysts and jacynths in golden mount;
More worth are they than all the wealth of Roum;
Your Emperour has none such, I'll be bound."
He's taken them, and in his hosen pouched.
AOI.
妃のブラミモンドが急いでやって来た。「ガヌロン様大好きですわ」と彼女は伯爵に言った。「我が君と他の皆から貴方さまに。奥様のためにブローチを二つご用意しました。
金で装飾されたアメジストとヒヤシンスです。ローマの全ての富以上の価値がありますの。貴方の皇帝もこれほどの物は持っていませんわよ」
彼はそれらを受け取り,ズボンのポケットに入れた。
・Bramimound も「イアペトゥスの地形一覧」に載っていました。贈り物のブローチはもう一つのバージョンではネックレスになっています。宝石は同じでアメジストとヒヤシンス石です。
↓この記事のアイキャッチ画像は以下の記事にあります
LI
The King now calls Malduiz, that guards his treasure.
"Tribute for Charles, say, is it now made ready?"
He answers him: "Ay, Sire, for here is plenty
Silver and gold on hundred camels seven,
And twenty men, the gentlest under heaven."
AOI.
王は今度は宝物を護るマルデュイを呼ぶ。「シャルルへの貢物は用意できたか?」
彼は王に答える。「はい陛下。七百の駱駝に乗せる大量の金銀に二十名の人質,この世で最も高貴な人々です」
LII
Marsilie's arm Guene's shoulder doth enfold;
He's said to him: "You are both wise and bold.
Now, by the law that you most sacred hold,
Let not your heart in our behalf grow cold!
Out of my store I'll give you wealth untold,
Charging ten mules with fine Arabian gold;
I'll do the same for you, new year and old.
Take then the keys of this city so large,
This great tribute present you first to Charles,
Then get me placed Rollanz in the rereward.
If him I find in valley or in pass,
Battle I'll give him that shall be the last."
Answers him Guenes: "My time is nearly past."
His charger mounts, and on his journey starts.
AOI.
マルシルは腕をガヌロンの肩に回す。王は彼に言う。「そなたは賢いし勇敢だ。さあ,そなたが最も神聖だと考える法によって,私たちのためにその心を醒めさせないで欲しい。
我が蓄えから数え切れないほどの富を与えよう。10頭の騾馬に純度の高いアラビアの金を積もう。毎年同じ事をしよう。
それからこの大都市の鍵を受け取るが良い。この大きな貢物は先ずシャルルに贈ってくれ。それから私のためにローランを殿軍に置いてくれ。
もし彼を谷か峠で見つけられれば,彼に最後の戦いを仕掛けてやろう」
ガヌロンは王に答える。「長居しすぎましたな」 軍馬に乗り,旅に出る。
・hold には hold O C で「O を C と考える,見なす」という語法があります。古語ではなく現代でも重要な語法です。the law that you most sacred hold = the law that you hold most sacred で「貴方が最も神聖だと考える法」です。前後の行を見れば,韻のために hold を文末に回したことが分かりますね。
・get me placed Rollanz in the rereward は一瞬分からなかったのですが,get me Rollanz placed in the rereward なら分かります。「殿軍に置かれているローランを私にくれ」=「私のために,ローランが殿軍に置かれるよう手配してくれ」ですね。
LIII
That Emperour draws near to his domain,
He is come down unto the city Gailne.
The Count Rollanz had broken it and ta'en,
An hundred years its ruins shall remain.
Of Guenelun the King for news is fain,
And for tribute from the great land of Spain.
At dawn of day, just as the light grows plain,
Into their camp is come the county Guene.
AOI.
かの皇帝は彼の領土に近づき,ヴァルターネの街に到着する。ローラン伯爵が破壊し,奪った街だ。百年は廃墟のままだろう。
王はガヌロンの報告を聞きたがっている。そして大国スペインからの貢物を待っている。夜明け頃,ちょうど日光が明るくなる頃,ガヌロン伯爵が陣幕に入って来る。
・地名 Gailne はもう一つのバージョンでは Valterne であり,「イアペトゥスの地形一覧」に「ヴァルターネ」として載っていました。
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ガヌロンがシャルルの下に帰還しました。次回,ガヌロンの報告ですね。
↓次回はこちら
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Twitter告知用あらすじ:ガヌロンはマルシル王の配下から宝剣と兜,そして王妃ブラビモンドからブローチの贈り物を貰い,カール大帝への貢ぎ物も預かって,ガヌロンの帰りを待つ大帝の下に帰還。