現代日本語の動詞活用は五段(咲く→咲かない,蹴る→蹴らない),上一段(見る→見ない),下一段(逃げる→逃げない),サ変(する,愛する),カ変(来る)の5つと少なく,サ変とカ変は属する動詞も少ないし,サ変とカ変以外は「~ない」に続く時の形で判別できるので比較的簡単です。
しかし古文では四段,上二段,下二段,上一段,下一段,サ変,カ変,ナ変,ラ変と9つに増え,どの動詞がどれに属すかも自然と身に付いていません。活用のみならず,どの動詞がその活用かも覚えねばならないのです。
(1)四段活用
まずは現代語の五段に近い四段活用から見てみましょう。
現代語の五段活用
[現代語は 未然形/連用形/終止形/連体形/仮定形/命令形 です]
咲く:咲かない・咲こう/咲きます・咲いた/咲く/咲くとき/咲けば/咲け
古語の四段活用
[古語は 未然形/連用形/終止形/連体形/
咲く:咲かず・咲かむ/咲きけり・咲きぬ/咲く・咲くべし/咲くとき/咲けども/咲け
立つ:立たず・立たむ/立ちけり・立ちぬ/立つ・立つべし/立つとき/立てども/立て
走る:走らず・走らむ/走りけり・走りぬ/走る・走るべし/走るとき/走れども/走れ
思ふ:思はず・思はむ/思ひけり・思ひぬ/思ふ・思ふべし/思ふとき/思へども/思へ
笑む:笑まず・笑まむ/笑みけり・笑みぬ/笑む・笑むべし/笑むとき/笑めども/笑め
借る:借らず・借らむ/借りけり・借りぬ/借る・借るべし/借るとき/借れども/借れ
行ふ:行はず・行はむ/行ひけり・行ひぬ/行ふ・行ふべし/行ふとき/行へども/行へ(仏道修行・勤行する,執り行う,治める)
好く:好かず・好かむ/好きけり・好きぬ/好く・好くべし/好くとき/好けども/好け(風流を好む,恋愛に熱中する)
呼ばふ:呼ばはず・呼ばはむ/呼ばひけり・呼ばひぬ/呼ばふ・呼ばふべし/呼ばふとき/呼ばへども/呼ばへ(呼び続ける,求婚する)
ということで四段活用は[あ/い/う/う/え/え]で,現代語の五段活用よりシンプルですね。
(2)ラ変活用(ラ行変格活用)
ラ変は四段に似ているので先に覚えちゃっていいでしょう。四段と並べます。
四段の「咲く」:咲かず/咲きけり/咲く/咲くとき/咲けども/咲け
ラ変の「あり」:あらず/ありけり/あり/あるとき/あれども/あれ
「あり」は終止形が「ある」ではなく「あり」になる特殊な動詞です。現代でも書き言葉では「ただし例外あり」と書いたりしますよね。「あり」「
ということで四段活用が[あ/い/う/う/え/え]であるのに対し,ラ変は[あ/い/い/う/え/え]です。これは全く大したことないですね。「あり,をり,はべり,いまそかり」は終止形が「り」で終わる動詞なのですから。
※助動詞「べし」は終止形に付きます(咲くべし)が,「あり」場合は「×ありべし」になってしまうので,連体形に付きます(あるべし)。終止形に付く助動詞は全て,「『あり』などのラ変型動詞の場合は連体形に付く」という但し書きが付きます。
・「×ありべし」→「あるべし」(べしは推量・意志・可能・当然・義務・適当・勧誘・命令)
・「×ありまじ」→「あるまじ」(まじは打消推量・打消意志・不可能・打消当然・不適当・禁止)
例.ミュッセの戯曲『戯れに恋はすまじ(On ne badine pas avec l'amour)』の「すまじ」は「するものではない」「すべきではない」という意味でしょう。
・「×ありらむ」→「あるらむ」(らむは現在推量・原因推量・伝聞・婉曲)
※「あり」は「言う」の意味で使われることがあります。「『かはむ』とあるに」(「飼おう」と言うと)(更級日記)
※ラ変型活用になる助動詞:けり(過去・詠嘆),たり(存続・完了),めり(推定・婉曲),なり(伝聞・推定),り(完了)
(3)ナ変活用(ナ行変格活用)
ラ変「あり」は1箇所(終止形)だけ四段と違いましたが,ナ変は2箇所(連体形と已然形)が違います。
四段の「咲く」:咲かず/咲きけり/咲く/咲くとき/咲けども/咲け
ラ変の「あり」:あらず/ありけり/あり/あるとき/あれども/あれ
ナ変の「死ぬ」:死なず/死にけり/死ぬ/死ぬるとき/死ぬれども/死ね
ナ変に属すのは「死ぬ」「
※サ変型活用をする「死す」という動詞もあります
※「往ぬ・去ぬ」は「立ち去る,過ぎ去る」のほか「死ぬ」の婉曲として使われることもあるようです
※「べし」が連体形に付くのはラ変だけですので,ナ変の「死ぬ」のときは「死ぬべし」です
(4)サ変活用(サ行変格活用)
現代日本語でも「する」はサ変ですが,古語の「す」もサ変です
現代語と比較するのは有効かもですね
現代語の「する」:し・さ・せ/し/する/する/すれ/せよ・しろ
古語 の「す」 : せ/し/す /する/すれ/せよ
大きく違うのは終止形ですね。現代語は「する」,古語は「す」です。
未然形・命令形も違いますが,複雑なのは現代語の方なので古文では問題なしです。ということで「せーしーすーするーすれーせよ」を10回くらい唱えましょう。
サ変に属するのは「す」「おはす」(いらっしゃる)「愛す」「死す」「
※「申し上げる」という意味の「奏す」や「啓す」はサ変なのに,「申す」は四段活用で,サ変ではありません。
四段「申す」:申さず/申しけり/申す・申すべし/申すとき/申せども/申せ
サ変「愛す」:愛せず/愛しけり/愛す・愛すべし/愛するとき/愛すれども/愛せよ
サ変「死す」:死せず/死しけり/死す・死すべし/死するとき/死すれども/死せよ
サ変「啓す」:啓せず/啓しけり/啓す・啓すべし/啓するとき/啓すれども/啓せよ
サ変「念ず」:念ぜず/念じけり/念ず・念ずべし/念ずるとき/念ずれども/念ぜよ
※現代語では「愛さない」ですが,古語では「愛せず」ということになりますね。なお現代語では「愛す」(五段)と「愛する」(サ変)があり,否定はそれぞれ「愛さない」「愛しない」ですが,「愛しない」を使う人は少ないです。
※「物す」は「書く」「来」などの動詞の代わりに使われることがあります(代動詞)
※「死せる孔明」について:「死す」の未然形「死せ」に,完了の助動詞「り」の連体形「る」が付いた形。「り」はサ変の未然形に付く(
(5)カ変活用(カ行変格活用)
現代語と同じく,カ変は「
現代語の「来る」:こ(ない)/き(た)/くる/くる(とき)/くれ(ば)/こい
古語の「来」:こ(ず)/き(けり)/く/くる(とき)/くれ(ども)/こ・こよ
ということで「こーきーくーくるーくれーこ・こよ」となり,現代語とは終止形・命令形の部分が違いますね。ということは現代語の「来るべし」は古語では「
「
「来れば」(已然形+ば):来るので,来ると(いつも)(夜ふけて来れば……;土佐日記)
「
「来たる」:来たら(ず)/来たり(けり)/来たる/来たる(とき)/来たれ(ども)/来たれ
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今回は四段活用と,4つの変格活用(ラ変,ナ変,サ変,カ変)をやったので,次回は上二段,下二段,上一段,下一段をやります。
四段[あ/い/う/う /え /え ]咲く,立つ,思ふ,……
ラ変[ら/り/り/る /れ /れ ]あり,をり,はべり,……
ナ変[な/に/ぬ/ぬる/ぬれ/ね ]死ぬ,往ぬ,助動詞「ぬ」,……
サ変[せ/し/す/する/すれ/せよ]す,おはす,ものす,……
カ変[こ/き/く/くる/くれ/こ・こよ]来
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