『枕草子』第二段その1に続き,3です。『枕草子』はまだ続けますが,ちょっと面白い文章に出会ったので脱線します。有名な話みたいですね。ウィキソースから原文を引きます。
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これも今はむかし。比叡の山に
「かいもちい,かいもちひ,かいもち(掻餅)」は粉を水で搔き混ぜて,こねて煮て作った餅で,餡や黄な粉を付けて食べる物のようです。最後に「い」「ひ」が付くことがあるのは,「もち」が「もち
「き」は直接体験した過去であるのに対し,「けり」は「……たそうだ」という意味らしいです。「けり」には詠嘆「……たのだなあ」もあります。共に連用形に付きますが,「き」はサ変(す など),カ変(来)の未然形にも付くようです。
「はじめに言葉ありき」って有名ですが,直接体験してないなら「はじめに言葉ありけり」の方が適切なんですかね笑
「き」:(せ)/○/き/し/しか/○[直接過去]
「けり」:(けら)/○/けり/ける/けれ/○[伝聞過去・詠嘆]
「サ変」+「き」:せし,せしか(以上未然),しき(以上連用)
「カ変」+「き」:こし,こしか(以上未然),きし,きしか(以上連用)
小野小町の「ながめせしまに」:「す」の未然形「せ」+「き」の連体形「し」
詠嘆の「けり」の例:降る雪や明治は遠くなりにけり(中村草田男の俳句)
さりとてしいださんをまちて(出来上がるのを待って)ねざらんもわろかり(寝ないとしたら見っともない)なんと思て。かたがわによりてねたるよし(寝たふり)にて出くるを待けるに。すでにしいだしたるさまにてひしめきあひ(大勢集まって騒ぐ)たり。
「ねたるよし」の「よし」は「ふり」みたいなんですが,ウィクショナリーには載っていません。やっぱり古語辞典が必要なんですかね……
「ねざらん(ねざらむ)」の「む」には意志・推量の他,適当・勧誘,仮定・婉曲があり,婉曲で訳せば「寝ないようなのもみっともない」,仮定で訳せば「寝ないとしたらみっともない」となりますが,うえのあい(上野亜依)さんの動画によると,助詞に続くなら「仮定」,名詞に続くなら婉曲がいいみたいです。「ねざらんも」と助詞に続いているので,仮定で訳しておきます。
「わろかりなん(わろかりなむ)」の「なむ」は「きっと……だろう」だそうです。「わろかり+強意ぬ→な+推量む」
このちご(児)さだめて(きっと)おどろかさんずらん(起こすだろう)とまちゐたるに。僧の物申さぶらはん(申し上げます,もしもし)おどろかせ給へ(起きて下さいませ)といふを。うれしとはおもへども。たゞ一どにいらへんも(一回で答えるとしたら)。待けるかと(待っていたのかと)もぞおもふ(思うといけない)とて。いま一こゑ(ひと声)よばれていらへん(答えよう)と念じて(我慢して)ねたるほどに(寝ていると,寝ているうちに)
「さだめて」(きっと)ですが,現代語でも偶に「さだめし……(だ)ろう」って言葉見ますよね。
「驚かす」(四段活用)は「驚かす」のほか「目覚めさせる,気づかせる」があります。「んずらん」は推量の「んず(むず)」にさらに推量の「らん(らむ)」を重ねた形です。「さだめて」(きっと)があるから強調したかったのか,語呂の問題か分かりませんが,いずれにせよ「むずらむ」は古語辞典に「連語」(熟語・成句みたいなもの?)として載っており,よくある形みたいです。
「む」:(ま)/○/む/む/め/○[未然形に付く;推量・意志・適当・勧誘・仮定・婉曲]
「むず」:○/○/むず/むずる/むずれ/○[同上]
※「むず」は「むとす」がつづまって生まれたので,「むず/むずる/むずれ」とサ変型活用
「
「もぞ+連体形」「もこそ+已然形」は「……したら困る」と懸念を示す意味みたいです。英語の in case... や lest S should V みたいなもの?
「もぞ+連体形」の例:「忍ぶることの弱りもぞする」(忍ぶ恋心が弱ったら困る;式子内親王の和歌;新古今;百人一首89)
「念ず」には「祈る,願う」のほか「我慢する」の意味があります。
子どもは「きっと起こしてくれるだろう」と寝たふりをしていて,実際に僧は起こしてくれたのですが,一回で起きるとまるで待ち構えていたみたいなので,我慢して,もう一度呼ばれたら答えようと思ったわけです。
や(おい,これ)。なおこしたてまつりそ(起こさないで下さいませ)。おさなき人はね入(寝入り)給にけりといふこゑ(声)のしければ。あなわびし(ああ辛い)と思ひて。
「なおこしたてまつりそ」の「な~そ」は禁止を表します。「な」は副詞であり,「春な忘れそ」のような語順もあります。
「わびし」は「辛い,悲しい,つまらない,貧しい」などの意味があります。
いま一ど(今一度)おこせかし(起こせよな)とおもひねにきけば(思ひ寝に聞けば)、 ひしひしと(むしゃむしゃと)たゞくひにくふをと(食いに食う音)のしければ。 すべなくて(なすすべなくて)むごの後に(すごく時間が経った後で)えいといらへ(答え)たりければ。 僧達わらふことかぎりなし。
「おこせかし」は「おこせ」+「かし」で「かし」は念を押す終助詞です。
「ひしひし」は「むしゃむしゃ」のほか「みしみし」「ぎっしり」「激しく」があるようです。
「むご」は「無期」ということのようですね。
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『宇治拾遺物語』鎌倉時代前期の説話集。編著者不詳。全15巻,197話。仏教説話,世俗説話,民間伝承がある。「わらしべ長者」は『今昔物語集』(平安末期)と『宇治拾遺物語』に載っている。
他に『日本霊異記(日本国現報善悪霊異記)』(平安初期),『三宝絵詞』(平安中期),『古本説話集』(平安末期~鎌倉初期),『古事談』『続古事談』『発心集』(鴨長明)『閑居友』(慶政?)(鎌倉初期),『今物語』(藤原信実)『十訓抄』『古今著聞集』(鎌倉中期),『沙石集』(無住)(鎌倉後期),『御伽草子』(室町物語),『醒睡笑』(江戸初期)など
※太字下線は三大説話集
~~おまけの単語勉強~~
(1)
「人」は「夫,妻,恋人」(あの人,例の人)を指すことがある。文脈に注意?
(2)
「背子」は親しい男性(夫,恋人,兄弟)。「妹背」は夫婦,兄妹・姉弟
(3)
「
(4)
「来にけり」:「
「来」:こ/き/く/くる/くれ/こ・こよ(カ変活用はこの動詞のみ)
「ぬ」:な/に/ぬ/ぬる/ぬれ/ね(「死ぬ・往ぬ」と同じナ変活用;連用形に付く)
「けり」:(けら)/○/けり/ける/けれ/○(終止形が「り」で終わるのでラ変型;連用形に付く)
この「来にけり」の連体形「来にける」に「らしい」の意味の「らし」が付いた「来にけるらし」がつづまった「来にけらし」が有名な持統天皇の「春過ぎて夏来にけらし」の一部分です。「らし」は終止形に付くのですが,「けり」の終止形に付くと「×けりらし」になってしまうので,「けり」のようなラ変型の場合は連体形「ける」に付いて「けるらし」になります。なお「夏来にけらし」は百人一首バージョンであり,万葉集では「夏来たるらし」だったそうです。この「来たるらし」は
(i) 「やって来る」という意味の動詞「来たる」の終止形+「らし」で「やって来るらしい」。例えば「来たる○月×日」は「これからやってくる○月×日」ですよね
(ii) 「来た」という意味の「来たり」(「来」+「たり」)に「らし」が付くと「×来たりらし」になってしまうので,連体形「来たる」に変えて「らし」を付けた「来たるらし」で,意味は「来たらしい」
の2つの意味に分かれるらしく,難しいですね。「来たり」の連体形が,「来たる」という動詞と同形になってしまうことによる問題ということでしょうか。「夏来たるらし」(万葉集)が「夏来にけらし」(新古今/百人一首)に改変された原因として,前者では解釈が2つに分かれてしまうということもあったのでしょうか?
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「ひしめきあひたり」とか「ひしひしと」とかコミカルで面白かったです(´▽`)
↓次回はこちら
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