前回までの『更級日記』に続き,今回はとても有名は
仁和寺に、ある法師、年よるまで(年寄りになるまで)石清水(京都府八幡市にある男山八幡宮)を拜まざりければ(拝まなかったので)、心憂く覺えて、ある時思ひたちて、たゞ一人かちより(徒歩で)詣でけり(参詣したそうな)。極樂寺、
・仁和寺は京都市右京区にあり,宇多天皇(867~931年)の時代からあります。
・私は京都府八幡市立男山第三中学校出身です。初詣は当然,石清水八幡宮です。仁和寺から男山八幡宮に徒歩で行くのは無謀です笑 電車・バスなど使っても1時間半くらいかかりそうです。
・「かちより」の「より」は手段を意味します。他に「起点」「経由地」「比較の相手(~より安い)」「~よりほかにない の より」「~するやいなや」があります。
・「まほし」は願望の助動詞で,未然形(あら)に付き,活用は形容詞シク活用型です。
・この人は石清水八幡宮のことを誰にも聞かず,かつ一人で行ってしまったので,実は八幡宮が山上にあることを知らなかったのですね。仁和寺の法師の体験談を聞かされた仲間の人が何と答えたかまで書いてほしかったです笑。なお徒歩で山に登るのも一興ですが,一度はケーブルカーに乗りましょう。行きはケーブルカー,帰りは徒歩で下山も良いですね。
↓この記事のアイキャッチ画像は以下の記事にあります
・文法的に面白いのは,兼好法師にとっては他人(仁和寺の法師)の経験談なので「けり」を使っていますが,仁和寺の法師のセリフの中は「き」(直接体験過去)になっていることです。参拝者たちが山に登っていることなどは本人が直接見ているからですね。
直接過去の「き」:(せ)/○/き/し/しか/○[基本的に連用形に付くが,カ変・サ変の場合は「こし(か)」「せし(か)」と未然形接続もある]
過去・詠嘆の「けり」:(けら)/○/けり/ける/けれ/○[ありと同じラ変型;連用形に付く]
詠嘆の「けり」としては中村草田男の「降る雪や明治は遠くなりにけり」が有名。
ちょっと短かったので次の53段「これも仁和寺の法師」も読みましょう。これも割と有名なものです。
これも仁和寺の法師、童の法師にならむとする(子どもが法師になろうとする)名殘(最後の別れ)とて、各遊ぶことありけるに、醉ひて興に入るあまり、傍なる(そばにある)足鼎をとりて頭にかづき(かぶり)たれば、つまるやうにするを、鼻をおしひらめて(鼻を押して平らにして)、顔をさし入れて舞ひ出でたるに、滿座興に入ること限りなし。
ここは割と読みやすいですね。鼎をかぶろうとしたら鼻が引っかかったので,鼻を押さえて平らにして顔を押し込み,鼎をかぶって舞ったら,大盛り上がりだったと。
・「場所なる」は「場所にいる・にある」です。以下にも出て来ます。
しばし奏でて後、
・「堪へがたかり」はク活用の形容詞「堪へがたし」の連用形ですね。
く・から/く・かり/し/き・かる/けれ/かれ
・「場所なる」は「場所にいる・にある」ですので,「京なる」は「京にいる」です。阿倍仲麻呂「天の原ふりさけ見れば春日なる 三笠の山にいでし月かも」が有名でしょう。
・「けめ」は過去推量などの意味を持つ助動詞「けむ」の已然形で,已然形になっているのは前に「こそ」があるからでしょう。
・「うぐ(穿ぐ)」は「穴が開く」。「穴を開ける」は「雨垂れ石を穿つ」の「うがつ」ですね。
・「からき命まうけて」の「まうけ」は「設く・儲く」(下二段;もうける)です。
・えらく悲惨な話ですが,なぜか笑ってしまうのは,「さすがにそんなこと,ある?」と思ってしまうからでしょうか。
==
次回は『平家物語』の一節を読みます。