一の皇子(第一皇子)は、右大臣の女御の御腹にて、寄せ(後見・後ろ盾;期待・信頼;ゆかり)重く、疑ひなき儲の君(皇太子,東宮)と、世にもてかしづき(大切に育て)きこゆれ(申し上げ)ど、この(光源氏の)御にほひ(輝くような美しさ)には並びたまふべくもあらざりければ(並びようもなかったので+尊敬)、おほかた(普通;全体)のやむごとなき御思ひ(大切に思う気持ち)にて、この君(光源氏)をば、私物(わたくしもの)に思ほし(お思いになる)かしづき(傅き;大切に育て)たまふこと限りなし。
女御は天皇の妻(皇后,中宮に次ぐ位)なので,「右大臣の女御」は右大臣の妻ではなく,右大臣の娘で女御になっている人です。「
「儲の君,儲君」は「皇太子,お世継ぎ」です。「儲け」は古語では「金儲け」の意味はなく「準備,食べ物,ごちそう」であり,「天皇の後継として備えている人」ということですね。「備え」→「蓄え」→「金儲けの儲け」と発展したのでしょうかね。
ここの「きこゆ」は「もてかしずき」という動詞に付いている補助動詞で,「……し申し上げる」という謙譲語です。今回は「言う」の意味は消えています。
「にほひ」には「香り」のほか「色艶,美しさ」などの意味があり,さらにはこれは光源氏の美しさを言っています。小野老(小野朝臣老)に「あをによし奈良の都は咲く花のにほふがごとく今盛りなり」という歌がありますが,「にほふ」は「美しく咲く・映える・輝く・染まる;香りが漂う」という意味です。菅原道真の「東風吹かばにほひおこせよ梅の花主なしとて春を忘るな[春な忘れそ]」の場合は「香り」の方ですかね。
「並びようもなかったので+尊敬」とテキトーに書いた「並びたまふべくもあらざりければ」は,「たまふ」が尊敬,「べく」が可能,「ざり」が打消,「けれ」が過去です。
「おほかたのやむごとなき御思ひ」は,帝の一の皇子への愛情は,普通の大切に思う気持ちであったということみたいですね。
一の皇子(光源氏の異母兄;後の朱雀帝)は普通に大切に思ったが,特別に愛情を注いだのは光源氏ということですね。
(桐壺更衣は)初めよりおしなべての(普通の)上宮仕へ(天皇の側に仕えること)したまふべき際(身分)にはあらざりき。おぼえ(世間の評判;寵愛)いとやむごとなく、上衆めかし(身分の高い人っぽい)けれど、わりなく(ことわり=道理に合わないくらいやたらと)まつはさ(側にいさせ)せたまふあまりに、さるべき御遊び(ちゃんとした詩歌管弦の遊び)の折々、何事にもゆゑ(趣や風情)ある事のふしぶしには、まづ(第一に桐壺更衣を)
「上衆(じょうず)」は「下衆」の逆と考えると分かりやすいですね。
「まつはさせたまふ」の「せ+たまふ」には(1)尊敬+尊敬と(2)使役+尊敬の可能性がありますが,前の「まつはさ(←まつはす)」が「側にいさせる」と,既に使役の意味を含んでいるので,今回は(1)でしょう。助動詞「る・らる・す・さす・しむ」は全部下二段型活用なので,助動詞「す」は[せ/せ/す/する/すれ/せよ]です。サ変動詞「す」は[せ/し/す/する/すれ/せよ]です(下線部分に相違あり)
「参う上らせたまふ」「さぶらはせたまひ」の「せたまふ」は(2)使役+尊敬ですかね。
「おのづから軽き方にも見えしを」が「自然と身分の低い人に見えたが」なのはいいとして,何が「自然と」なのか? という問がヤフー知恵袋にあり,回答者は「余りにもしょっちゅう付き従えさせるので,まるで召使のように見えた」という回答を出しています。
「坊」が「東宮(皇太子)」の意味になるのは,「
「べきなめり」は「べき(推量べし)なる(断定なり)めり(推量めり)」→「べきなんめり」→「べきなめり」です。推量の「めり」は「目あり」から来ていることを押さえていれば,活用が「あり」のラ変型であることが覚えられます。同様に伝聞・推量の「なり」も「音あり」から来ており,ラ変型活用です。ただし断定の「なり」は形容動詞ナリ活用です。
「思ひきこえ」の「聞こゆ」は謙譲ですが,弘徽殿の女御相手だからだそうです。なお「申し上げる」といってもここは「思ひ」に付いている補助動詞なので,何かを申し上げる(言う)という意味ではなく「お~する」(お取りする)といった意味です。その後の「させたまひ」は尊敬+尊敬でしょう。
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~おまけの単語勉強~
「らうたし」(ク活用)かわいい,いとおしい。ウィクショナリーによると語源は「労甚(ろういた)し」
「らうがはし」(シク活用)騒々しい,乱雑だ,無作法だ。「乱がはし」
「敷島」:「日本」「大和」。「敷島の道」は「やまとうたの道」つまり「和歌の道」
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大意を取るならまだしも,品詞まで考えると難しいですね。次回は『更級日記』の可愛い猫にゃんが出てくる話に飛びつきます。
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