前回の前半では四段,ラ変,ナ変,サ変,カ変の5つの活用を見たので,今回は残りの上一段,下一段,上二段,下二段の4つを見ます。まずは属する動詞が少なくて覚えやすい上一段,下一段から見ます。
(6)上一段活用
現代語にも上一段活用はあるので,まずは現代語を見てみましょう。
[現代語は 未然形/連用形/終止形/連体形/仮定形/命令形 です]
「着る」:きない/きます/きる/きるとき/きれば/きろ・きよ
「見る」:みない/みます/みる/みるとき/みれば/みろ・みよ
では古語を見ます。
[古語は 未然形/連用形/終止形/連体形/
「着る」:きず/きけり/きる/きるとき/きれども/きよ
「似る・煮る」:にず/にけり/にる/にるとき/にれども/によ
「見る」:みず/みけり/みる/みるとき/みれども/みよ(「こころみる,かんがみる」とかも)
あれ,現代語とほとんど同じで,現代語より簡単ですね(命令形に「きろ」がない)
「射る・鋳る」:いず/いけり/いる/いるとき/いれども/いよ(ヤ行上一段)
「
「
「干る」(上一段)は「乾く,潮が引く」という意味
「
「見る」(上一段)は「見る」「思う,判断する」「男女の関係を結ぶ,結婚する」「面倒を見る」など
「見す」(下二段)は「見せる」「結婚させる」「占わせる」
「見す」(四段)は「ご覧になる」(尊敬語)
「見ゆ」(下二段)は「見える,思われる」「見られる・見せる」「会う,結婚する」
(7)下一段活用
現代語にも下一段活用はあるので,まずは現代語を見てみましょう。
「出る」:でない/でます/でる/でるとき/でれば/でろ・でよ
では古語を見ますが,古語では下一段は「蹴る」しかありません(カ行下一段活用)
「蹴る」:けず/けけり/ける/けるとき/けれども/けよ
「蹴ろ」が無い分,現代語より簡単です。ところで,現代語の「蹴る」も下一段活用でしょうか? 現代語で「蹴る」に「ない」を付けようとすると,「蹴ない」ではなく「蹴らない」になります。よって現代語の「蹴る」はラ行五段活用です。
「蹴る」(現代語):けらない・けろう/けります・けった/ける/けるとき/ければ/けれ
※現代語の「蹴る」の命令形は「蹴れ」ですが,たまに「蹴ろ」と言う人がいます。
(8)上二段活用
上二段と下二段は四段と共に,所属する動詞が多いので,以下のようにするのが定石のようです。
まずラ変(「あり」など),ナ変(「死ぬ」など),サ変(「す」など),カ変(「来」),上一段(「見る・似る」など),下一段(「蹴る」)をしっかり覚える。
それら以外の動詞だった場合,
「ず」を付けて「あ」段なら四段活用
「ず」を付けて「い」段なら上二段活用
「ず」を付けて「え」段なら下二段活用
現代語で「ない」を付けて「あ」段なら五段活用,みたいな判別をやるわけですね。判別する際,ラ変,ナ変,サ変,カ変,上一段,下一段の動詞ではないことを確定させてから,判別せねばなりません。例えば「死ぬ」は「死なず」だから四段だ,「見る」は「見ず」だから上二段だ,と判別してはならないわけです(「死ぬ」はナ変,「見る」は上一段だから)
では上二段活用を見ます。
「恋ふ」:恋ひず/恋ひたり/恋ふ/恋ふるとき/恋ふれども/恋ひよ
「恨む」:恨みず/恨みたり/恨む/恨むるとき/恨むれども/恨みよ
※現代語は「恨まず」なので間違わないよう注意
「過ぐ」:過ぎず/過ぎたり/過ぐ/過ぐるとき/過ぐれども/過ぎよ
「閉づ」:閉ぢず/閉ぢたり/閉づ/閉づるとき/閉づれども/閉ぢよ
「恥づ」:恥ぢず/恥ぢたり/恥づ/恥づるとき/恥づれども/恥ぢよ
例.恥づることなきを之れ恥づれば、恥なし(孟子;羞恥心がないこと,恥知らずであることを恥じるように心がけておけば,恥をかく羽目になることはない)。言ってみれば「無恥の恥」ということ?
※現代語は「恨まない」,古語は「恨みず」なので判別の際に間違いそうですね。「恨みず」は特に覚えておいた方が良さそうです。ウィキペディア「上二段活用」に “マ行上二段活用の「恨む」は後に四段活用となった” とあります。
「老ゆ」:老いず/老いたり/老ゆ/老ゆるとき/老ゆれども/老いよ
(9)下二段活用
「見ゆ」:見えず/見えたり/見ゆ/見ゆるとき/見ゆれども/見えよ
「燃ゆ」:燃えず/燃えたり/燃ゆ/燃ゆるとき/燃ゆれども/燃えよ
「受く」:受けず/受けたり/受く/受くるとき/受くれども/受けよ
「上ぐ」:上げず/上げたり/上ぐ/上ぐるとき/上ぐれども/上げよ
「捨つ」:捨てず/捨てたり/捨つ/捨つるとき/捨つれども/捨てよ
「出づ」:出でず/出でたり/出づ/出づるとき/出づれども/出でよ
↓「日出処の天子」=「日出づる処の天子」
「得」:えず/えたり/う/うるとき/うれども/えよ
「寝」:ねず/ねたり/ぬ/ぬるとき/ぬれども/ねよ
「経」:へず/へたり/ふ/ふるとき/ふれども/へよ
※「得ず」「寝ず」「経ず」は現代語からも違和感ありませんが,終止形は「得る・寝る・経る」ではなく「う・ぬ・ふ」,連体形は「える」ではなく「うる」,已然形も「えれ」ではなく「うれ」なので注意ですね。なお,ア行に活用する動詞は「得,心得」だけです(「植う」は「植ゑる」となるのでワ行)
※参考:「サ変」「ナ変」「ラ変」「カ変」の4つを「変格活用」と言うが,それ以外の「四段」「上一段」「上二段」「下一段」「下二段」の5つを「正格活用」と言う
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次回は形容詞,形容動詞に入るのが筋でしょうが,それらは飛ばしてお化けのように怖い助動詞に入っていきます。
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