ドイツ語版ウィキペディアで日本の戦国武将の記事を読み,ドイツ語の勉強をしていきます。
私自身,大学でドイツ語を勉強したのですが,物になりませんでした。ドイツ語文法は一通りやりました(ドイツ広文典)ので,辞書をしっかり引けば文章を何とか読める程度です。
なぜ戦国武将かと言うと,余り知らない人物(ドイツ語の記事しかないドイツ人とか)をやると誤訳に気づけないからです。よく知っている人や,日本語のしっかりとした記事がある人なら,それを参照することで誤訳を避けられます。
細かく単語も見ていきますので,一回当たり読み進める量は少なくなります。上杉謙信だけで何回も,何週間もかかるかもしれません。
一部の単語にルビを打ちますが,当然正確ではありません(巻き舌の R など)。乱暴な参考くらいに捉えて下さい。
では早速見ていきましょう。
Uesugi Kenshin war ein Daimyō der japanischen Sengoku-Zeit und eine der schillerndsten Heldengestalten dieser Epoche.
der は定冠詞(the)です。
ドイツ語の名詞には男性名詞,女性名詞,中性名詞があります(フランス語は男性と女性のみ)
男性名詞に定冠詞が付くときは
女性名詞に定冠詞が付くときは
中性名詞に定冠詞が付くときは
今回,der Sengoku-Zeit(戦国時代)となっていますが,Zeit は女性名詞です。
あれ,女性名詞なら die
der Zeit は特殊な意味になります。「時代の」です(2格と言う)。of the... といった感じですね。
つまり der Sengoku-Zeit は「戦国時代の(of the Sengoku-Age)」という意味です。
よって Uesugi Kenshin war ein Daimyō der japanischen Sengoku-Zeit は「上杉謙信は日本の戦国時代の大名(の一人)だった」となります。
細かいですが,英語の Japanese と違ってドイツ語の
この eine は one みたいな意味です。
eine の後の der ですが,「der+男性名詞」が基本で,「der+女性名詞」の場合は「……の」(of the...)といった意味になることを既に確認しました。よって Heldengestalten の文法上の性がポイントです。難しい語ですが「英雄的人物」という意味で,女性名詞です。故に「der+女性名詞」ということになり,「……の」ということになります。「eine der+女性名詞」は one of the...「……のうちの一つ」ということでしょう。つまり「英雄的人物の一人」と言っているのです。上杉謙信は男性なのに,「人物」に当たる名詞(Gestalt)は女性名詞というのが面白いですね。
schillerndsten は難しいですが「最も輝かしい」という意味のようですね(-st は最上級を表す)
dieser は「この(this)」です。男性名詞の場合は
いえ,Epoche は女性名詞です。
あれ,なんで女性名詞なのに diese Epoche ではなく男性名詞パターンの dieser Epoch になってるの??
勘の良い人はお分かりですね。これは先ほど説明した定冠詞 der と die の関係と同じです。女性名詞なのに dieser Epoche となっている場合は「時代の」という意味です。
ということで Heldengestalten dieser Epoche は「この時代の英雄的人物」です。
以上より,全訳はこうなります。
Uesugi Kenshin war ein Daimyō der japanischen Sengoku-Zeit und eine der schillerndsten Heldengestalten dieser Epoche.
「上杉謙信は日本の戦国時代の大名の一人であり,この時代の最も輝かしい英雄の一人であった」
der, dieser という特殊な形(2格)を使うことにより英語と違って of を使わなくて済んでいる点がドイツ語の特徴ですね。
もう一文頑張りましょう。
Kenshin wurde als zweiter Sohn des Burgherrn Nagao Tamekage (長尾為景) in Tochio (栃尾) in der Provinz Echigo geboren.
als は as「として」です。「として生まれた」ですね。
des は定冠詞(the)ですが,初登場の形ですね。
先ほど,「die+女性名詞」が基本だが「der+女性名詞」の場合は「……の」の意となるという話をしました。男性名詞の場合は「der+男性名詞」が基本だが「des+男性名詞」の場合に「……の」の意となります。
Burgherr は Burg「城」の herr「主」つまり「城主」です。以上より,
Kenshin wurde als zweiter Sohn des Burgherrn Nagao Tamekage (長尾為景) in Tochio (栃尾) in der Provinz Echigo geboren は
「謙信は越後国の栃尾の城主長尾為景の次男として生まれた」です。
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ドイツ語の発音アドバイス
w+母音は濁る
war:「ワー」ではなく「ヴァー」
ei は「エイ」ではなく「アイ」
zwei:「ツヴァイ」(2)
Einstein:「アインシュタイン」
語末の d は濁らない
Kind:「キント」
語末の e の発音
英語では語末の e は一切発音されないことが多い(game, tape)ですが,ドイツ語では「エ」のような「ア」のような曖昧な音になります(/ə/)。例えば Wiktionary では danke の発音記号は /daŋkə/ となっています。
j は「ヤ」行
Japan:「ヤーパン」
Johann:「ヨーハン」(バッハの名)
s+母音は濁る
Sohn:「ゾーン」
Salzburg:「ザルツブルク」
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単語リスト
als「として」(as)
die, der, des〈定冠詞〉(the)
diese, dieser「この」(this)
ein, eine〈不定冠詞〉(a, an)
die Epoche「時代」(epoch)
geboren「生まれた」(born)←原形 gebären
die Gestalt「姿形,人影,人物」(figure)→ゲシュタルト崩壊
der Held「英雄」(hero)
japanisch「日本の」(Japanese)
der Herr「主人,ミスター」(master, Mr.)→der Bergherr「城主」
das Kind「子ども」(child)
der Lehrer「男性教師」←lehren「教える」
die Lehrerin「女性教師」
die Provinz「州,地方」(province)
schillern「光る,輝く」→現在分詞schillernd(shining)
der Sohn「息子」(son)
und「そして」(and)
war「であった」(was)←原形sein
werden[過去wurde]「……になる,……される」
die Zeit「時間,時代」(time)
zwei「2」(two)
zweite「2番目の」(second)
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おぎゃあで終わってしまいました。次回をお楽しみに。
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発展(今は無視して OK)
der+男性名詞,die+女性名詞,das+中性名詞という基本を示しましたが,文法上の性が何であっても複数名詞の場合は die+複数名詞となります(例えば das Kind だが複数の場合は die Kinder)。上で「Gestalt は女性名詞だから云々……」と言っていますが,正確には「Gestalten という複数名詞だから基本は die Gestalten であり,der Gestalten は2格となる」です。
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発展(気にしなくて OK)
日本語版によると長男晴景と景虎の間には景康,景房という男子がおり,景虎は四男ということになります。しかし同じウィキペディアには景康,景房は存在を疑問視されているともあり,二人がいなければ景虎は次男です。なお晴景と綾(仙桃院)は正室の子で同母兄妹ですが,景虎は側室の子(庶子)です。
↓次回はこちら