かつて島田紳助と松本人志が深夜にざっくばらんなトークをするという番組があり,好んで観ていました。
ある回で政治や戦争の話になり,島田紳助が
「ゲリラが……」
と言い出したんです。すると松本人志が面白そうに笑うんですね。
「……なんやねん」
と島田紳助が言います。すると松ちゃんは
「……ゲリラですやん!」
と言うんです。松ちゃんは東京に出てきて長いですが,紳助さんはコテコテの関西アクセントなんですね。例えば関西では佐久間を「さくま」と発音します。中島は関西では濁らずに「なかしま」と言うことが多いです。「サザエさん」の中島のアクセントとは違いますよね。「ミヤネ屋」で宮根誠司アナが「なかやまさん」と言うのもそれです。東京では中川を「なかがわ」と言うのに,中山を「なかやま」とは言いません。
全ての語ではありませんが,関西では2音節めにアクセントを置くことが多いのです。外国語にも適用され,ジャン・コクトーは「コクトー」(極道と同じアクセント)です(しかし「黒糖」はそう言わないのは不思議です)。父は歴史好きだったのですが,ハンス・モムゼンを「モムゼン」と言ってました。私は「モムゼンて……」と思って聞いていました。
この「モムゼンて……」と思う感覚が,松ちゃんの
「ゲリラて……笑 ゲリラですやん!」
の感覚と同じなのです。
ところが……
私は当時学習塾で受験英語を教えていましたので,「実際ゲリラってどう発音するのだろう」と思い,辞書を引きました。すると
guerrilla 「ガリラ」/ɡəˈrɪlə/
と「リ」に強勢があり,強勢位置では紳助さんが正しかったのです。なお「ゴリラ🦍」は
gorilla 「ガリラ」/ɡəˈrɪlə/
全く同じ発音でした。『ジーニアス英和辞典』で gorilla を引くと(同音 guerrilla)と表記してあります。なお,ゴリラと同じ発音になってしまうのを避けるため,ゲリラの方はわざと /ɡeˈrɪlə/ と発音することもある,と『ジーニアス英和辞典』にはあります。
「関西人は東京人より英語を習得するのが早い」という言説を聞くことがあります(韓国人は日本人より英語を習得するのが早いという言説もあります) それは,
・関西弁は標準語とアクセントが逆サイドのことがある
・英語は日本語(標準語)とアクセントが逆サイドのことがある
この結果,
・関西弁と英語のアクセントが同サイドになることがある
ということが起こるからと思われますが,これが「関西人が英語を習得するのが得意である」ことに対する寄与率は低いと思います。「関西人は東京人より英語を習得するのが早い」ということが仮にあったとして,それは「関西人は下手くそでも物おじせず話す」という性格の寄与率の方が高いのではないでしょうか。
この記事で英語の面白さのほんの一端が味わってもらえればと思います。