トールがミョルニルを手に入れたAsgard Stories 15の続きです。
Thor’s Wonderful Journey - I
One morning Thor asked Loki, the fire-god, if he would like to go forth with him to Utgard, the stronghold of the giants, where he was going to try, with his mighty hammer, to conquer those fierce enemies of Asgard. Loki was glad to go with him, and the two gods started forth in Thor’s chariot, drawn by two goats. Thor often went on a journey, so the dwellers in Asgard did not wonder to see him getting ready for a long drive. As Thor and Loki drove along, the heavy chariot rattled, and made the thunder echo among the hills. People in our world, down below in Midgard, heard the rumbling, and said: “What a heavy thunderstorm! How the thunder crashes and rumbles!”
ある朝トールは火の神ロキに,一緒に巨人の根城ウートガルズに行きたくないか,自分の強力なハンマーを使って,アースガルズに仇なす獰猛な奴らをやっつけてみたいのだ,と言いました。ロキは喜んで同行すると言い,2人の神は2頭の山羊が引くトールの戦車で出かけました。トールは旅に出ることが多かったので,アースガルズの住人はトールが長い車の旅の準備をしているのを見ても不思議がりませんでした。トールとロキが旅をしている間,重い戦車はガタガタと揺れ,丘のあいだじゅうに雷鳴を轟かせました。下界にある私達のミズガルズの人々は,ゴロゴロという雷鳴を聞き,「なんて激しい嵐だ。雷の音が凄いぞ」と言いました。
・asked Loki if he would like to go... は「行きたいかどうかロキに尋ねる」という間接話法ですが,直接話法に戻すとsaid to Loki, “Would you like to go...?”です。
・conquer those fierce enemies of Asgardを初め「あの獰猛なアースガルドの敵達」と訳したのですが,読み直してみると「敵がアースガルド」に読めてしまいました。enemies of Asgardは「アースガルドにとっての敵」なのに,「アースガルドの敵」と訳すことで「アースガルドにいる敵」に読めてしまったのですね。そこで「アースガルドに仇なす奴ら」と訳し変えたのですが,何か不味い和訳をしていないか調べる時は,自分の和訳を日本語として読んでみて,何か事実関係がおかしく伝わっているように読めたら,正しく伝わるよう和訳を修正しましょう。その際多少言葉が増えてしまっても,間違って伝わるより百倍良いですね。
・トールの戦車を引いていた2頭の山羊はタングリスニとタングニョーストですね。「乗獣の一覧」もご覧下さい。
・driveは文字通りの「ドライブ」です。戦車という車の旅のことですね。
Toward evening the travelers stopped at a peasant’s hut, and Thor, alighting from his chariot, went to the door of the house, to ask shelter for the night. “I will gladly give you a room, but I have no food in the house,” said the man who opened the door. “Oh, never mind that,” said Thor; “I will provide the food.” So Thor and Loki stopped for the night at the peasant’s hut. They found the family within, the man, his wife, and two children, a boy and a girl. All looked on in great surprise to see Thor kill his two goats and cook them for the evening meal. “Eat all you wish of the meat,” said Thor, “but be careful not to break any of the bones; throw them all into the two skins which I have spread upon the floor.”
夕方頃,2人は農夫の小屋に立ち寄り,トールは戦車から降りて,一晩泊めてもらおうと戸口に向かいました。ドアを開けた男は「喜んで部屋をお貸ししましょう。でも食べ物がないのです」と言いました。「ああ,気にするな。食べ物が俺が準備する」とトールは言いました。それでトールとロキは農夫の小屋に泊まりました。中にはその男,その妻,少年と少女という家族がいました。トールが2頭の山羊を殺して夕飯を調理するのを見ると,家族はみな非常に驚いて眺めていました。「欲しいだけ肉を食べればいいさ。でも骨を折らないように注意してくれ。骨はみんな床に広げた2枚の皮に投げ入れるんだよ」とトールは言いました。
・towardに「頃」という意味があることは覚えておきましょう。
・一般にfarmerは農地(farm)を持つ「農家,農場主」,peasantは農地を持たない「小作人」です。
・look onは「傍観する,見守る」です。Asgard Stories 9でも出てきました。
・in (great) surpriseのinは〈どういう状態にいるか〉を示すinです。in a circleは「輪になって」,in a line [queue] は「列をなして」です。
・Eat all you wish of the meatはEat all you wish「好きなだけ食え」+of the meat「料理した肉の中から」です。いずれにしてもwish ofという熟語ではありません。drink of...「…から一部を飲む」というのもありましたね。
・be careful to-Vは「Vするよう気をつける」,be careful not to-Vは「Vしないよう気をつける」です。be not careful to-Vにすると「Vするよう気をつけない」になってしまいます。
Now the boy, whose name was Thialfe, wondered why Thor should say this, and as he happened to have a piece of the leg-bone, he thought there could be no harm in breaking it open, to get out the soft marrow to eat. Thor was just then talking to Loki, and did not notice what had been done; but next morning the boy learned a lesson that he never forgot. When Thor was ready to start off again, next day, he held his magic hammer over the skins in which lay the bones. All at once the goats became whole again, and stood there just the same as before, except that one of them limped with his hind leg.
すると少年が,シャールヴィという名でしたが,なんでそんな事を言うんだろうと思い,たまたま足の骨のひとかけらを持っていたので,骨を切り開いて中の柔らかい髄を食べても害はないだろうと思いました。トールはちょうどその時ロキと話していて,行われていることに気づいていませんでした。しかし翌朝少年は一生忘れられない教訓を学びました。トールが翌朝,再び出発しようと準備をする時,骨を並べた皮に魔法のハンマーをかざしました。とつぜん羊の体が完成し,以前と全く同じように立っていましたが,1頭が後ろ足を引きずっていました。
・except that... は「…ということを除いて」→「ただし…だ」です。thatは省略可能でexcept=butのようになります。↓2020/1/27の記事で解説しています。
・hindは「後ろの」という意味で,behind,hinder「妨げる」と同根です。
Then the young Thialfe knew why Thor had told them not to break the bones. At first, when he saw Thor’s angry face, and how he grasped his hammer, the boy was frightened, and wanted to run away; but soon he remembered it would be cowardly to do that, so he went to Thor, and asked his forgiveness. Now the mighty thunder-god, though often angry, was always just and kind. After scolding the boy as he deserved, he freely forgave him, and said that he and his sister might go along with Loki and himself on their journey.
その時シャールヴィ少年は,トールが骨を壊さないように言った理由が分かりました。少年はトールの怒った顔,そして手にはハンマーが握られているのを見ると,初めは怖くなって逃げ出したくなりました。しかしそんなことをしたら臆病者だと思い直し,トールの所に行って許しを請いました。ところでこの力持ちの雷神は,怒ることも多かったですが,いつも公平で優しかったのです。彼の行為に見合うだけ叱った後,気前よく少年を許し,少年と少女はロキと自分の旅に付いてきたらいいと言いました。
・how he grasped his hammerは,howを「どのように…か」と訳すと「トールがどのようにハンマーを持っていたか」となってしまいますが,単なるthat節のような意味でhowを使うことがあります。howをthatに交換すれば,he saw that he grasped his hammer「少年はトールがハンマーを握っているのに気づいた」です。
・cowadlyはlyで終わる形容詞です。-lyは副詞にすることも形容詞にすることもあります。この話はいずれやります。
・このjustは「ちょうど」ではなく「公平な(fair),正義の」という形容詞ですね。
・freelyには「自由に」のほか「寛大に」の意味があります。
・少年少女は罪滅ぼしの意味で(?)トールに同行することになりました。少女は「レスクヴァ」Raska,Röskvaと言うようです。
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以後この4人で巨人の本拠ウートガルズへの旅が続きます。
↓次回です