but が「しかし」の意味になった経緯を書いた時に,殆どの前置詞が that 節を続けないことを述べました。
接続詞の that 節は「……ということ」という意味で,接続詞の特長として完全な文が続けられるので超便利なのですが,一部の他動詞や,殆どの前置詞の目的語になりません。
I hope that you will succeed. は正しいですが,
I want that you will succeed. や
I like that you will succeed. とは言えません。
I wish (that) you ... は,反実仮想(仮定法)になります。
I want that. や I like that. は正しいのですが,that 節が駄目なのです。不条理ですね。
また in や except, but, save などの少数を除き,前置詞の目的語にもできません。
I depend on that he will help me. は駄目なんですね。
このような場合,法の抜け穴のような方法で that 節に持ち込めることがあります。
(1)the fact を使い,これに同格の that を続ける
the fact は名詞ですから,接続詞の that のような縛りはなく,基本的にどんな他動詞・前置詞の目的語にもなります。
そして,the fact には〈同格の that〉を続けられます。
the fact that...「……という事実」
the rumor that...「……という噂・風説」
the belief that...「……という信念」
などの that です。同格の that も接続詞であり,完全な文が続けられます。
よって,that 節が直接続けられなくても,the fact that 節は続けられることになり,結果的に(迂回的に?)that 節に持ち込めるのです。
overlook the fact that ...「……という事実を見落とす」
think about the fact that ...「……という事実について考える」
despite the fact that ...「……という事実にも拘らず」(though と同じ意味になる)
ただし,同格の that を続けられない名詞もあるので,これまた厄介ですが。同格の that を続けられる名詞は,積極的に覚えておきましょう(また記事を書きたいと思います)
(2)形式目的語 it で代用し,直後に that 節を続ける
目的語の that 節が長い時,形式目的語(仮目的語)it で置き換え,長い that 節は文末に回すことができます。有名なのはこれでしょう。
take O for granted「Oを当たり前だと考える」
→take it for granted that ...「……であることを当たり前だと考える」
that は文末に回されているわけですが,for granted のような他の語句が残っていない場合,that 節が it の直後に来ることになります。
see to it that ...「必ず……となるよう取り計らう」
cannot help it that ...「……となるのは避けられない・どうしようもない」
depend on it that ...「……ということを当てにする」
hate it that ...「……であることを残念に思う」(hate the fact that ...)
いったん形式目的語の it を置いてから,その真の目的語として that 節を続けているのです。
なお,that 節の代わりに when 節を使うこともありますね。
I hate it when ...「……なのは嫌だ」
このセリフは「リロ&スティッチ」で,スティッチをどうするかどうか姉妹で揉める時,リロが「家族は絶対見捨てない」みたいな「家訓」を持ち出した時,ナニが「それを持ち出すのはずるい」と言う時に使われていました。
でも,こんなの手間だし,馬鹿みたいじゃないですか? 結局人々が法を迂回して that 節に持ち込んでいるわけですから,最初から that 節を OK にする法改正があるべきですよね!
(3)実は直接 that 節を続ける傾向が出てきている
上で挙げた overlook the fact that ...「……という事実を見落とす」は,overlook that ... とできないから,回りくどい方法を取ったんですよね。
しかし overlook that 節は,可となり始めています(議論になっているサイトがあります)。cannot help it that 節も,cannot help that 節でよしという時代が来るでしょう。この it は,会話する人にとって全く無駄なものに感じられるからです。
もちろん overlook the fact that と言った方が文法に気をつけて喋っているという印象は持たれそうですね。
要は「ら抜き表現」と同じで,誰かが言い出して,定着してしまい,のちに辞書が可とする,という言語の宿命なんですね。言葉というものは「流行ったもん勝ち」であり,「けしからん」と言っても,時代遅れになるだけなんです。「草」なんて表現,なかったですからね。そうでなければ,みんな古文を話しています。
最近「延々……している」を「永遠……している」と言う人が出てきて(アメトーークで宮迫がちゃんと「延々……」と言っているのにテロップが「永遠……」となっていることがあった),気になって仕方がないのですが,受け入れなければならないと思っています。